2-5. YEは拗音として使われたか

YEは拗音として使われたか

 拗音というのは現代の表記法において、イの段の仮名文字に小さなャュョを添えて表記される「キャ・シュ・チョ」のような発音のことです。漢字音の場合、ほとんどの行が直音と拗音の対立、例えばカ行なら「ka, ku, ko(カ・ク・コ)」←→「kya, kyu, kyo(キャ・キュ・キョ)」のような対立を有していますが、果たしてヤ行のエもヤユヨ同様、かつては拗音として使われていたのでしょうか。

 今のところ、え /e/ とエ /je/ とが発音し分けられていた時代の文献にも、「ke(ケ)」対「kye(キエ・キェ)」のような書き分けをしようとした形跡は見つかっていないようです。従って現時点での結論としては、ヤ行の中でもエ /je/ だけは拗音として使われなかったと見て良さそうです。
 これは半母音yと母音eとは調音位置が近い、つまり舌の移動距離が小さいので、前に別の子音が来て「子音+y+e」という音の並びになると、yが埋没してしまってその有無が聞き取りづらかったためと考えられます。

 ちなみにこれと同様の現象は合拗音(w)にも見られます。合拗音(w)の場合、「ka, ki, ke(カ・キ・ケ)」←→「kwa, kwi, kwe(クヮ・クヰ・クヱ)」という対立はあっても、「ko(コ)」←→「kwo(クヲ)」という対立はなかったとされています。これも半母音wと母音oの調音位置が近く、koとkwoの違いが聞き取りづらかったためと考えられます。

子音k/gで始まる音一覧(もっとも種類が多かった時期)
前舌母音-後舌母音
子音+介母\母音ieaou
ky--ケ/ゲキャ/ギャキョ/ギョキュ/ギュ
k-キ/ギカ/ガコ/ゴク/グ
kw-クヰ/グヰクヱ/グヱクヮ/グヮ-

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