アクセントの表記法一覧

 アクセントを表すのによく使われる方法を、まとめてご紹介いたします。
 なお、以下の表中で時折出てくる「アクセントの核(または単に『核』)」というのは、「直後に音程の下がり目を持つ拍」のことを指すアクセント用語です。例えば「低-高-低」型なら、「2拍目に(アクセントの)核がある」という言い方をします。

アクセントの表記法あれこれ
方式概要・特徴このアクセント表記が用いられている主な書物
丸式 あたま/●●○
鯨/○●○
桜/●●●

 高く発音する拍を●で、低く発音する拍を○で表記する方式。下降調の拍は左半分黒く、右半分白い丸。◐で、上昇調の拍は左半分白く、右半分黒い丸。◑で表す。
 この表記法は、単語からアクセントだけを切り離して論じたい時に便利で、アクセントの類別や変遷を追う時によく使われる。
 縦書き・横書き両方に対応できるのも長所。なお縦書きの時は、時計回りに90度回転させた状態(●○上半分黒く、下半分白い丸。◒上半分白く、下半分黒い丸。◓)で使われる。
 白黒どちらが「低」でどちらが「高」かをいったん忘れてしまうと、思い出す取っかかりがないのが難点。

『日本国語大辞典』
手書き原稿が主流であった頃のアクセント研究書。
HL式 頭 HHL
鯨 LHL
桜 HHH

 高く発音する拍をH (high) で、低く発音する拍をL (low) で表記する方式。下降調の拍はF (fall?/falling?) で、上昇調の拍はR (rise?/rising?) で表されることが多い。
 上の丸式と同じく、単語からアクセントだけを切り離して論じたい時によく使われる。
 ラテン文字なので縦書きには馴染まないが、パソコン上で扱いやすいこと、どちらが「高」でどちらが「低」かを比較的忘れにくいことなど、丸式より優れている点も多い。

『日本語アクセント史総合資料』
線式 あたま
くじら
さくら

 高く発音する拍の上に線を引いて表す方式。低く発音する拍に対しては、何も線を引かない方法と、文字の下に線を引く方法とがある。
 単語とアクセント表記とが一体化しているので、アクセントだけを論じるには不向きであるが、もっとも一般的で、見た目にも分かりやすいのが最大の強み。

たいていのアクセント辞典。
数字式A あたま[2]
鯨(2)
桜[0]

 語頭から数えて、何拍目の後ろで音程が下がるか(このような「すぐ後ろに下がり目を持つ拍」のことを「核」という)を数字で表す方式。無核の単語は0と表記する。
 京阪式アクセントの場合、高い音程で始まるアクセント型と、低い音程で始まるアクセント型とを区別する必要があるが、前者は数字を□で囲い、後者は○で囲うことで区別する(左の例ではそれぞれ[ ]と( )とで代用しました)。
 間違いがあっても気づきにくいという問題もあるが、パソコンにデータを打ち込む際の手間があまりかからず、なおかつ表示スペースも省略できるのが強み。

『日本国語大辞典』
(小学館)
数字式B あたま H2
鯨 L2
桜 H0

 基本的には上の「数字式A」に同じ。ただ□や○で囲うかわりに、"H"(高く始まる)や"L"(低く始まる)を数値の前につけるという点が異なる。
 ちなみに核の位置を後ろから数えて示したい時は、「あたま H-2」「鯨 L-2」「朝日 H-3」などとマイナス表記を用いる。

中井幸比古氏のアクセント辞典。
数字式C あたま 3
鯨 1; 3
桜 0

 こちらはアクセントの核ではなく、音程が低くなりはじめる拍を、数字で表す方式。
 京阪式アクセントでは高い音程で始まるアクセント型と、低い音程で始まるアクセント型とが区別されるが、この方式では、低い音程で始まるアクセント型は、1拍目の前でいったん音程が下がっているものと見なして考える(左の「鯨」の例を参照)。

『全国アクセント辞典』
(東京堂出版)
強調式 あた

さくら

 高く発音する拍を、太い文字で表記する方式。
 印刷の具合によっては太いか細いか見分けづらいことも。

『角川新国語辞典』
文字式 頭[タ]
鯨[ジ]
桜[平]

 数字式Aと考え方は同じだが、こちらはアクセントの核となる拍の文字を、直接表記する。
 この方式は東京式アクセントを表記する時には良いが、京阪式アクセントを表記するには、高く始まるアクセント型と低く始まるアクセント型とを区別するためにもう一工夫いる。

『日本国語大辞典』
『集英社国語辞典』

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