N1. 名詞の曲用表

目次

N1-1. 性・数・格

 ラテン語の名詞には「性別」というものがあり、すべての名詞は必ず「男性・女性・中性」のどれかに分類されます。

 そしてラテン語の名詞は「数」及び「格(文における名詞の機能・役割)」の違いによって語形が変化します。「数」には「単数・複数」の2種類があり、「格」には次の7種類があります。

 名詞の格変化のことは「曲用」とも呼ばれます。

 それぞれの格の詳しい用法については別の頁で改めて取り上げます。

名詞の曲用表


単数 複数 備考
主格 呼格 対格 属格 与格 奪格 主格・
呼格
対格 属格 与格・
奪格
第1曲用
Ā幹
-a -am -ae -ae -ās -ārum -īs 単数地格 -ae
-ās -am/-ān -ae ギリシア語の固有名詞専用。
複数形は上に同じ。
-ēs -ē/-ā -ēn -ē/-ā
-ēs -ae
第2曲用
O幹
-us/無し
(古 -os)
-e -um
(古 -om)
-ōs -ōrum -īs 単数地格 -ī
-um(古 -om) -a
-on ギリシア語の固有名詞専用。
複数形は上に同じ。
男女 -os -e -on
男女 -ōs -ō/-ōn -ō/-ī
第3曲用
子音幹
-s/無し -em -is -e -ēs -um -ibus
第3曲用
I幹
男女 -is -im/-em -ī/-e -ēs -īs/-ēs -ium
-e/無し -ia
第4曲用
U幹
-us -um -ūs -uī -ūs -uum -ibus
-ua
第5曲用
Ē幹
-ēs -em -ēī/-eī -ēs -ērum -ēbus


主格 呼格 対格 属格 与格 奪格 主格・
呼格
対格 属格 与格・
奪格
備考
単数 複数

曲用の通則

曲用パターンの示し方

 ラテン語では名詞の曲用(格変化)パターンを示す際、その名詞の単数主格の形と単数属格の語尾とを並べるという方法が慣例として使われます。
 例えば辞書に "porta, -ae." と書いてあれば、それは「単数主格は porta、単数属格は語尾の部分が -ae に変化して portae となる」ことを意味しています。そして上の表を見ますと、単数主格の語尾が -a になり単数属格の語尾が -ae になるのは、「第1曲用」型の変化をする名詞であることが分かります。
 このように名詞の変化パターンを素早く突き止めるためにも、属格語尾だけは真っ先に覚えておくことが望ましいと言えます。

属格語尾

  • 第1曲用: -ae.
  • 第2曲用: -ī.
  • 第3曲用: -is.
  • 第4曲用: -ūs.
  • 第5曲用: -ēī, -eī.

語幹にまつわる注意

 名詞の単数主格はしばしば語幹と曲用語尾とが融合してしまい、結果として単数主格だけ語幹が他の格とは異なる形になってしまっていることがあります。例えば「時」を意味する名詞は、単数主格では tempus という形になりますが、それ以外の格の時は「tempor+曲用語尾」という形になります。
 このような語については、辞書では "tempus, -oris" のように、語幹が変化する部分にまで遡って属格の形が示されます。そして単数主格以外の語形は後者(単数属格形)の語幹から導き出します。

よく使われる略語

 ラテン語の名詞については次のような省略語がよく使われます。

名詞の性別について

  • m.(masuculine: 男性名詞)
  • f.(feminine: 女性名詞)
  • n.(neuter: 中性名詞)

名詞の格について

  • nom.(nominative: 主格)
  • voc.(vocative: 呼格)
  • acc.(accusative: 対格)
  • gen.(genitive: 属格)
  • dat.(dative: 与格)
  • abl.(ablative: 奪格)
  • loc.(locative: 地格)

 このうち性別にまつわるものは本サイトでも使うことがあります。

N1-2. Ā幹・第1曲用

 この曲用に属する名詞は大半が女性名詞です。

Ā幹・第1曲用
例:rosa, f.(語幹:rosā-)「バラ」
単数 複数
語形語尾 語形語尾
主格 rosa-a rosae-ae
呼格 rosa-a rosae-ae
対格 rosam-am rosās-ās
属格 rosae-ae rosārum-ārum
与格 rosae-ae rosīs-īs
奪格 rosā rosīs-īs

 第1曲用であっても、男を意味する名詞は男性名詞になります。例:「agricola. 農夫」「nauta. 水夫」「pāpa. 幼児語で父。パパ」

 次のような例外的語尾が現れることもあります。

N1-2-1. ギリシア語由来の曲用語尾

 ギリシア語から持ち込まれた名詞、特に固有名詞は、単数でのみ特殊な変化をすることがあります。複数形が存在する場合はラテン語のルールに基づいて曲用します。

Ā幹・第1曲用
ギリシア語由来の語尾(単数のみ)
Archiās(人名) Comētēs(彗星) Epitomē(要旨・縮約)
語形語尾 語形語尾 語形語尾
主格 Archiās-ās comētēs-ēs epitomē
呼格 Archiā comētē/-a-ē/-a epitomē
対格 Archiam/-ān-am/-ān comētēn-ēn epitomēn-ēn
属格 Archiae-ae comētae-ae epitomēs-ēs
与格 Archiae-ae comētae-ae epitomae-ae
奪格 Archiā comētē/-a-ē/-ā epitomē

 単数主格が -ās, -ēs のものは男性名詞で、-ē のものは女性名詞です。ただし-ē型の女性名詞は完全にラテン語化されてしまって原則通りの曲用(つまり-a, -ae型の曲用)をすることのほうが多く、前記 epitomē のようにギリシア語風の曲用を維持している名詞のほうが少数派です。

 ラテン語聖書はギリシア語聖書を底本としていることもあり、教会ラテン語では -ās, -ēs型語尾の人名がよく出てきます。

N1-3. O幹・第2曲用

 基本的にこの曲用に属する名詞のうち単数主格が-usまたは-erで終わるものは男性名詞、-umで終わるものは中性名詞です。

O幹・第2曲用
例:hortus, m.(語幹:horto-)
「庭園・菜園」
例:templum, n.(語幹:templo-)
「神殿」
単数 複数 単数 複数
語形語尾 語形語尾 語形語尾 語形語尾
主格 hortus-us hortī templum-um templa-a
呼格 horte-e hortī templum-um templa-a
対格 hortum-um hortōs-ōs templum-um templa-a
属格 hortī hortōrum-ōrum templī templōrum-ōrum
与格 hortō hortīs-īs templō templīs-īs
奪格 hortō hortīs-īs templō templīs-īs