N2. 名詞の基本5類その1(第1、第2、第4、第5曲用)

目次

N2-1. 第1曲用・Ā幹

 この曲用に属する名詞は大半が女性名詞です。

第1曲用・Ā幹
例:rosa, f.(語幹:rosā-)「バラ」
単数複数
語形語尾語形語尾
主格 rosa-a rosae-ae
呼格 rosa-a rosae-ae
対格 rosam-am rosās-ās
属格 rosae-ae rosārum-ārum
与格 rosae-ae rosīs-īs
奪格 rosā rosīs-īs

 第1曲用であっても男を意味する名詞は男性名詞です。例:「agricola. 農夫」「nauta. 水夫」「pāpa. 幼児語で父。パパ」

 次のような例外的語尾が現れることもあります。

N2-1-1. ギリシア語由来の曲用語尾

 ギリシア語から入ってきたĀ幹名詞、特に固有名詞は、単数でのみギリシア語風の曲用をすることがあります。

第1曲用・Ā幹
ギリシア語由来の変化(単数のみ)
Archiās, m.
(人名)
comētēs, m.
(彗星)
epitomē, f.
(要旨・縮約)
語形語尾 語形語尾 語形語尾
主格 Archiās-ās comētēs-ēs epitomē
呼格 Archiā comētē/-a-ē/-a epitomē
対格 Archiam/-ān-am/-ān comētēn-ēn epitomēn-ēn
属格 Archiae-ae comētae-ae epitomēs-ēs
与格 Archiae-ae comētae-ae epitomae-ae
奪格 Archiā comētē/-a-ē/-ā epitomē

 単数主格が -ās, -ēs のものは男性名詞で、-ē のものは女性名詞です。いずれも古典ギリシア語におけるĀ幹名詞の基本的な曲用に由来しています*1
 このうち最後の -ē型の女性名詞はラテン語式の(つまり-a, -ae型の)曲用に置き換えられてしまうことが多く、表にある epitomē のようにギリシア語風の曲用を保持している名詞のほうが少数派です。例:mūsica, -ae, f.(音楽。ギリシア語は-ē語尾)。

 これらの語も複数形は(もし複数形があるなら)ラテン語の第1曲用名詞と同じように曲用します。

 ラテン語聖書はギリシア語聖書を底本としていることもあり、教会ラテン語では -ās, -ēs型語尾の人名がよく出てきます。例:Thōmās(トマス・トマ)、Lūcās(ルカ)。

N2-2. 第2曲用・O幹

 原則として第2曲用に属する名詞のうち単数主格が-us, -rで終わるものは男性名詞、-umで終わるものは中性名詞です。

第2曲用・O幹(男性と中性)
例:hortus, m.(語幹:horto-)
「庭園・菜園」
例:templum, n.(語幹:templo-)
「神殿」
単数 複数 単数 複数
語形語尾 語形語尾 語形語尾 語形語尾
主格 hortus-us hortī templum-um templa-a
呼格 horte-e hortī templum-um templa-a
対格 hortum-um hortōs-ōs templum-um templa-a
属格 hortī hortōrum-ōrum templī templōrum-ōrum
与格 hortō hortīs-īs templō templīs-īs
奪格 hortō hortīs-īs templō templīs-īs

 -usで終わるO幹名詞でも次のものは例外的に女性名詞です:1) 木・町・島の名前、2) Aegyptusのような一部の国名。3) 例外5語「alvus(腹)、 carbasus(亜麻、リンネル)、 colus(糸巻き棒[第4曲用型変化も])、 humus(地面、大地)、 vannus(籾殻を吹き飛ばす扇)」、4) いくつかのギリシア語由来の語「atomus(アトム)、 diphthongus(二重母音)」
 また次のものは例外的に中性名詞です:pelagus(海。ギリシア語より)、 vīrus(毒)、vulgus(群衆)。

 呼格が主格と異なる形になるのは、この第2曲用の男性名詞・単数形においてのみです。第2曲用の呼格の用例としては、キリスト教の「Domine(主よ)」やカエサルの「Et tū, Brūte!(おまえもか、ブルートゥスよ!)」などがよく知られています。

 曲用語尾のうち -us と -um は、元はそれぞれ -os, -omという形でした。これらは古典期には既に一般的ではなくなっていたものの、こと -vus, -vum, -quus で終わる名詞(即ち子音 [w] の直後)においては、カエサルやキケローの時代まで古い語尾(-vos, -vom, -quos, -quom) が使われていたようです(おそらく [-wu-] より [-wo-] のほうが発音しやすいため、[w]の直後に限って元々の語尾 -os, -omが残った)。

 語尾については次のような形が現れることもあります。

N2-2-1. -erまたは-irで終わる第2曲用名詞

 第2曲用名詞の中には単数主格が-erまたは-irで終わるものもあり、これらの単数形は次のように曲用します。

第2曲用・O幹・-er/-ir語尾・単数形の曲用
puer, m.
(語幹:puero-)
「少年」
ager, m.
(語幹:agro-)
「野」
vir, m.
(語幹:viro-)
「男」
語尾

主格 puer ager vir -
呼格 puer ager vir -
対格 puerum agrum virum -um
属格 puerī agrī virī
与格 puerō agrō virō
奪格 puerō agrō virō
語形 語形 語形 語尾

 単数の主格と呼格とにおいて曲用語尾が消失しているのが特徴で、これら以外の単数形と複数形とは普通の第2類名詞と同じように曲用します。

 注意を要するのは真ん中のager型の名詞です。よく見ると単数主格および呼格とそれ以外の語形とで語幹が少し異なっています。これは単数の主格と呼格とにおいて曲用語尾が落ちて agr となった際、発音しにくいのでgとrの間にeが差し込まれて ager になったためです。
 Ager型の曲用をする可能性があるのは -er の前が破裂音(p/b/t/d/c/gのどれか)である場合です。ただし破裂音+erという並びであるものすべてがager型とは限りません。たとえば「子」という意味の liber は puer型 (liber, liberī) ですが、「木の皮、転じて紙・本」という意味の liber は ager型 (liber, librī) です。

 Vir自体の複数属格はパターン通りの -ōrum ですが、前述の通り duumvir, triumvir, decemvir のような複合語の後部要素となる場合はしばしば複数属格が -virūmとなります。

N2-2-2. ギリシア語由来の曲用語尾

 先の第1曲用同様に、第2曲用でもギリシア語由来の語についてはギリシア語風の特殊な曲用が使われることがあります。

第2曲用・O幹
ギリシア語由来の変化(単数のみ)
Barbitos, m.
(リ゚ラ、竪琴)
Androgeōs, m.
(人名)
Īlion, n.
(地名)
語形語尾 語形語尾 語形語尾
主格 barbitos-os Androgeōs-ōs Īlion-on
呼格 barbite-e Androgeōs-ōs Īlion-on
対格 barbiton-on Androgeō/-ōn-ō/-ōn Īlion-on
属格 barbitī Androgeō/-ī-ō/-ī Īliī
与格 barbitō Androgeō Īliō
奪格 barbitā Androgeō Īliō

 両端の -os型、-on型はギリシア語におけるO幹名詞の基本的な曲用に由来しています。一方真ん中のタイプはギリシア語のアッティカ方言にて、-ēos → -eōs と長母音の位置が移動したことによって出来た変種に由来しています。

 これらも複数形は(もし複数形があるなら)普通のラテン語の第2曲用名詞と同じように曲用します。

N2-3. 第4曲用・U幹

 原則として第4曲用のうち単数主格が-usで終わるものは男性名詞で、-ūで終わるものは中性名詞です。

第4曲用・U幹(男性と中性)
例:frūctus, m.(語幹:frūctu-)
「果実・フルーツ」
例:cornū, n.(語幹:curnu-)
「角」
単数複数 単数複数
語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾
主格 frūctus-us frūctūs-ūs cornū cornua-ua
呼格 frūctus-us frūctūs-ūs cornū cornua-ua
対格 frūctum-um frūctūs-ūs cornū cornua-ua
属格 frūctūs-ūs frūctuum-uum cornūs-ūs cornuum-uum
与格 frūct-uī frūctibus-ibus cornū cornibus-ibus
奪格 frūctū frūctibus-ibus cornū cornibus-ibus

 -usで終わるU幹名詞でも次のものは例外的に女性名詞です:1) acus(針)、domus(家)、manus(手)、porticus(柱廊・アーケード)、tribus(部族)、Īdūs[複数](一ヶ月の真ん中の日。3、5、7、10月の15日、他の月の13日。日付を言う時の基準として使われる)など。2) 樹木の名前。
 U幹の中性名詞は数が少なく、よく使われるのは次の3語のみです:cornū、genū(膝)、verū(串)。

 U幹名詞においては次のような語尾が使われることもあります。

N2-3-1. Jēsus

 固有名詞 Jēsus, -ū, m.(イエズス)はしばしば第4曲用に分類されますが、実際は次のような不規則な曲用をします。これは、古典ギリシア語から曲用ごとラテン語に借用してきたためです。

Jēsusの曲用
例:Jēsus, m.
主格 呼格 対格 属格 与格 奪格
語形 Jēsus Jēsū Jēsum Jēsū Jēsū Jēsū
語尾 -us -um

 古典ギリシア語においてこの語は「語幹末が縮約するタイプのO幹曲用」に属していて、ラテン語でいうところの第2曲用に分類されるものでした。古典ギリシア語では同じ曲用をする名詞は他にもあり、特に Jēsus 専用の曲用ということでもなかったのですが、曲用ごとラテン語に借用されてきた語が他にないため、結果としてラテン語において Jēsus は独特な格変化をするに至りました。

 ラテン語では Jē-sus と2音節扱いのこともあれば、I-ē-sus と3音節扱いのこともあります。

N2-3-2. domus

 domus(家)という名詞は、第4曲用と第2曲用とを混ぜたような曲用をします。

 込み入っていてややこしいのですが、「基本的にはU幹が優勢ながら、単数奪格と複数対格との2形のみO幹が優勢」と覚えておけばラテン語で文章を書くような際に迷わないでしょう。

N2-4. 第5曲用・Ē幹