V1. ラテン語の動詞概説

 ラテン語の動詞は主語や時制などの要因によって語形が変化します。このような語形変化のことを活用(かつよう)と言います。

 動詞の活用は名詞の曲用よりもはるかに複雑で、一覧表を丸暗記するという方法で覚えようとするとかなり大変です。効率の良い覚え方については後の章にて取り上げるとしまして、この章ではまず動詞の種類や動詞にまつわる用語を示します。

目次

V1-1. 動詞の種類

 ラテン語の動詞には次の5種類があります。

第1類Ā幹

 未完了幹の末尾が-āである類。この類は不定法現在形能動態が-āreで終わり、直説法現在1人称単数が-ōで終わる。

第2類Ē幹

 未完了幹の末尾が-ēである類。この類は不定法現在形能動態が-ēreで終わり、直説法現在1人称単数が-eōで終わる。

第3類子音幹

 未完了幹の末尾が子音である類。この類は不定法現在形能動態が-ereで終わり、直説法現在1人称単数が-ōで終わる。

第3類I幹

 未完了幹の末尾が短い-iである類。この類は不定法現在形能動態が-ereで終わり、直説法現在1人称単数が-iōで終わる。

第4類ī幹

 未完了幹の末尾が長い-īである類。この類は不定法現在形能動態が-īreで終わり、直説法現在1人称単数が-iōで終わる。

 文法書の中には不定法の語形のみに注目し、子音幹とI幹とをあえて区別していないものもあります。その影響もあって子音幹とI幹とはどちらも第3活用と呼ばれるのが慣わしになっています。

 なお「子音幹動詞」の中には、その名に反して語幹末が母音-uで終わるものもあります(例:fluō, tribuō, statuōなど)。

V1-2. 動詞の態・法・時制など

 ラテン語の動詞には、態・法・時制という概念があります。

 これらの大まかな説明は次の通りです。

 能動態とは主語が何かをするという視点の表現で、受動態とは主語が何かをされるという視点の表現です。動詞の中には能動態しかないものや、受動態しかないものも存在します。

 直説法とは事実を事実として述べる言い方です。「過去・現在・未来」という3つの時と、「完了(その時点で既に終わった状態)か、未完了(その時点でまだ終わっていない状態)か」という2つの相との組み合わせからなる3×2=6つの時制があります。

ラテン語の直説法の時制
状態\時 過去 現在 未来
- 完了形
(過去形)
現在形 未来形
進行中 半過去形
(未完了過去形)
完了・完結 大過去形
(過去完了形)
完了形
(過去形)
未来完了形
(先立未来形・前未来形)

 和訳が複数あるものについては別の訳を()内に示しました。
 時制は6つなのに表の項目が7つあるのは「完了形(過去形)」が2箇所に重出しているためです。ラテン語の完了形は、英語の過去形と現在完了形とを兼ねたような言い方で、日本語の「~した」という言い方と機能がよく似ています。「先月どこそこへ行った」のように過去にあったことを点として語る時にも、「その本ならもう読んだ」のように行為の結果が今に残っている状況でも、どちらでも言い表せます。そのため先の表でも2箇所に現れています。

 接続法には4つの時制があります。接続法は用法が広く、端的に説明するのが難しいのですが、それぞれ概ね次のような状況で使われます。

 命令法とはその名の通り、他者に命令する言い方です。ラテン語の「命令」には、日本語なら「~せよ」に相当する言い方のみならず、「~してください」に相当する言い方までもが含まれます。

 さらに動詞に関しては、次のような形もあります。

 動詞の諸形の用法についてはまた別の章で取り上げます。今はただこういうものがあるということだけ覚えておいてください。