複合名詞のアクセントを決定する要因として、次の2つのことがよく知られています。
実際に例を見てみましょう。
前部要素 | + | 後部要素 | = | 複合名詞のアクセント | |||
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雨 | ○◐ | + | 降り | ●○ | = | 雨降り | ○○‐●○ |
天気 | ●○○ | + | 予報 | ○○● | = | 天気予報 | ●●●‐●○○ |
2つ目の法則(後部要素の1拍目に核が来る)は単に「そうなることが多い」というだけで、必ずしもすべての複合名詞に当てはまるわけではありません。しかし1つ目の「式保存の法則」はかなり広く当てはまるようです。
ただし式保存の法則も決して万能ではなく、鎌倉時代以前からある複合名詞の中には当てはまらぬものもあります*1。これは多くの場合、南北朝時代に起こった体系変化の影響によるものです。
前部要素 | + | 後部要素 | = | 複合名詞のアクセント | |||
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雨 | ○◐ | + | 戸 | ● | = | 雨戸 | ●○○ |
朝 | ○◐ | + | ご飯 | ●○○ | = | 朝ご飯 | ●●●○○ |
複合名詞でも、動詞から転じた「転成名詞」が絡むと状況が少し変わります。たとえば「出入り」「行き来」「読み書き」「飲み食い」のような、対立的な意味を持つ転成名詞が2つ並んでいるものは、「出入り・行き来/●○○」「読み書き・飲み食い/○●○○」「行き帰り/●●○○○」「登り降り/●●●○○」「上がり下がり/●●●○○○」という具合に、アクセント核が前部要素の最終拍に来ます(「行き来」だけはなぜか例外)。
また語形は似ていても、複合動詞(後述)からの転成名詞はまた違うルールに基づいてアクセントが決まります。複合動詞からできた名詞は、「式は元の動詞のものをそのまま受け継ぎ、アクセント核は常になし(無核)」となるのが原則です(下表参照)。
追い越す/●●●● → 追い越し/●●●●
勝ち抜く/○○○● → 勝ち抜き/○○○●
面白いのは「寝起き」という言葉で、「今しがた起きたところ」という意味なら●●●型のアクセントで発音されますが、「寝ることと起きること」という対立的な意味で用いられるときは、「出入り・行き来」と同じ●○○型のアクセントで発音されます。
複合動詞とは「思い‐やる」「舞い‐上がる」のように、複数の動詞が組み合わさってできている動詞のことです。
現代京都語では、複合動詞は「式は前部動詞から受け継ぎ、アクセント核は常になし(無核)」という音調で発音されます(下表参照)。
前部要素 | + | 後部要素 | = | 複合動詞のアクセント | |||
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思い | ●○○ | + | やる | ●● | = | 思い‐やる | ●●●‐●● |
舞い | ●○ | + | 上がる | ●●● | = | 舞い‐上がる | ●●‐●●● |
かき | ○● | + | 上げる | ●●● | = | かき‐上げる | ○○‐○○● |
降り | ○● | + | 出す | ○● | = | 降り‐出す | ○○‐○● |
ただし「言いよる」「食べよる」のような「~よる」という言い方だけは例外的なアクセントで発音されます。これは恐らく「~よる(おる)」の元となっている「おる(居る)/●○」自体のアクセントが特殊なせいで、現代の京都語では「式は前部動詞のそれを受け継ぎ、核は前部動詞の最終拍に置く」という音調で発音されています(下表参照)。
例語 |
上段「歌う/●●●」(高起の例) 下段「隠す/○○●」(低起の例) |
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語形 | アクセント | |
終止・連体 | うたい‐よる かくし‐よる |
●●●‐○○ ○○●‐○○ |
過去 | うたい‐よった かくし‐よった |
●●●‐○○○ ○○●‐○○○ |
連用 | うたい‐よって かくし‐よって |
●●●‐○○○ ○○●‐○○○ |
「~している」「~してくれる」「~しておく」のように、「~して」の後ろに補助動詞が続く形は、複合動詞とはまた違ったルールに基づいて発音されます。
現代京都では、前部要素となる動詞のほうは「式は保存、核はなし(無核)」という音調で発音され(これは複合動詞の場合と同じ)、それに続く補助動詞(後部要素)のほうは固有のアクセントをそのまま生かして発音されます。
前部要素 | + | 後部要素 | = | 複合動詞のアクセント | |||
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言うて | ●○○ | + | いる | ●● | = | 言うて‐いる | ●●●‐●● |
下げて | ○●○ | + | ある | ○● | = | 下げて‐ある | ○○●‐○● |
示して | ●○○○ | + | おく | ●● | = | 示して‐おく | ●●●●‐●● |