「下駄隠し」が分かるという方に質問です。あなたの知っている「下駄隠し」の歌詞は、どのパターンでしたか?
今回、「下駄隠し」についてアンケートをしようと思い立ったのは、桂の荒Qさんという方とのメールのやりとりの中で、下駄隠しの話題が出たことがきっかけでした。
桂の荒Qさんは、下駄隠しの歌詞として以下のような文面を送ってくださいました。
「下駄かくし ちゅうねんぼ 柱の下のネズミが
草履をくわえてちゅっちゅくちゅ
ちゅっちゅく饅頭は誰が食た
誰も食わない ワシが食た
表の看板 三味線屋 裏から回って三軒目」
童歌にありがちな何とも不思議な歌詞ですが、私はこの歌詞を見たとき、「誰も食わない」という部分に強い引っかかりを覚えました。
と言いますのも、もしこの「下駄隠し」が京都発祥の遊びなら、「食わない」ではなく「食わん」か「食わへん」となるはずだと感じたからです。
そこで下駄隠しについて色々と調べてみましたところ、『京ことば辞典』(井之口有一・堀井令以知著)という本に、以下のような歌詞が紹介されているのを発見しました。
「下駄隠し ちゅうねんぼー はしりの下の鼠が
草履をくわえて チュッチュクチュ
チュッチュク まんじゅは誰がくた
だーれもくわへん わしがくた
表の看板 三味線屋 裏から回って三軒目」
先ほどの歌詞とほとんど同じですが、こちらでは「食わない」が「食わへん」になっています。またそれ以外にも、先ほどの歌詞では「柱の下」だった部分が、この歌詞では「はしりの下」となっています。
そこで「食わない」と「食わへん」、そして「柱」と「はしり」、それぞれどちらが本来の歌詞だったのかを解き明かすべく行ったのがこのアンケート7です。
では投票結果を見てみましょう。
得票数 (百分率) | 内訳 | ||||
---|---|---|---|---|---|
京都市内 | 京都府内 | 京都近県(府) | 近畿以外 | ||
「はしらの下の鼠は」 + 「誰もくわへん、わしが食た」 |
8(42.1%) | 7 | 0 | 1(滋賀県) | 0 |
「はしらの下の鼠は」 + 「誰もくわない、わしが食た」 |
7(36.8%) | 5 | 1(長岡京市) | 1(枚方市) | 0 |
「橋の下の鼠は」 + 「誰も食わない、わしが食た」 |
3(15.8%) | 3 | 0 | 0 | 0 |
「はしりの下の鼠は」 + 「誰も食わない、わしが食た」 |
1(5.3%) | 1 | 0 | 0 | 0 |
まず「柱」vs「はしり」の対立について注目してみますと、「柱の下」が15票、「はしりの下」が2票を集め、圧倒的に「柱の下」という歌詞で歌う人の方が多いようです。
私はアンケートを実施する前、「この部分の歌詞はもともと『はしり』であったものが、だんだんと『はしり』という言葉の意味が分からない人が増えたため、徐々に語感の似た『柱』という言葉に置き換えられていったのであろう」と想像していたのですが、残念ながら今回の結果からそうした仮説を裏付けることはできませんでした。
一つ興味深いのが、事前に想定していなかった「橋の下」という回答が寄せられたことです。この項目に投票なさった方はいずれも30代以上の方で、しかもそのうちお二人は砂川学区(京都市伏見区)の方でした(もう1人は北区の方)。
次に「食わない」vs「食わへん」の対立について見てみますと、「食わない」が11票、「食わへん」が8票となっていて、こちらはかなり拮抗しています。
それぞれの内訳を見てみましても、これという地域的な偏りは見いだされません。年齢層にしても同じく双方とも10代から40代にいたるまで偏りなく回答が寄せられていて、際だった分布傾向は見られません。
では最後に見方を変えて、「食わない/食わへん」の対立と「柱/はしり/橋」の対立とを組み合わせて考えてみましょう。
「柱」 | 「はしり」 | 「橋」 | |
---|---|---|---|
「誰も食わない」 | 7 | 1 | 3 |
「誰も食わへん」 | 8 | 0 | 0 |
ご覧のように、「誰も食わない」と歌う場合は、その前の歌詞が「柱」だったり「はしり」だったり「橋」だったりと色々なのに対し、「誰も食わへん」と歌う場合は、必ず「柱の下」との組み合わせになるという傾向があるようです。
「誰も食わない」系の歌詞の方がバリエーションに富んでいるということは、それだけこの歌詞の方が歴史が古いということを暗示しているのかもしれません。
もしこれが本当だとしますと、下駄隠しの歌詞は京都生まれではない可能性が高いと言えます。