京都言葉には発音上の特徴が二つあります。一つは有名な「1拍語の語尾を引く」というもので、これは「絵・木・手」など本来1拍である言葉を、「えー・きー・てー」とあたかも2拍語であるかのように発音することです。
そしてもう一つの特徴、それがこれからとりあげる「遅上がり」といわれる現象です。
現代の京都言葉では、単語のどこで音程が下がるかは重視しても、どこで上がるかは重視しません。そのため日常会話では、音程の上がり目が本来の位置より遅れて現れることがよくあります。この現象のことを「遅上がり(おそあがり)」と言います。
例 | 「今+は」 ○●+● |
「海+は」 ○●+● |
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本来形 | ○●● | ○●● |
遅上がり形 | ○○● | ○○● |
遅上がりという言葉は前章にも出てきましたが、本章の遅上がりも本質的にはあれと同じものです。音程の上がり目を先送りしようとする傾向が、名詞+助詞や用言+体言という単位でも現れるようになったのが本章の遅上がりです。
遅上がりは品詞を問わず、低起式無核の何かに高起式の何かが続く場合は常に起こりえます(表2)。
例 | 読む+時間 ○●+●○○ |
良い+ところ ○●+●●● |
ここ+は+どこ ○●+●+●● |
ここ+から+海+まで ○●+●●+○●+○○ |
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本来形 | ○●+●○○ | ○●+●●● | ○●+●+●● | ○●+●●+○●+○○ |
遅上がり形 | ○○+●○○ | ○○+●●● | ○○+○+●● | ○○+○●+○●+○○ |
備考 | 動詞+名詞 | 形容詞+名詞 | 名詞+助詞+名詞 | 名詞+助詞+名詞+助詞 |
低起無核の語Aに高起の語Bが続く時、その高起の語Bというのが助詞でなければ、先送りされた上がり目はAとBとの境界に現れます。表2の例で言いますと、「読む時間」「良いところ」がそうです。「時間」「ところ」ともに高起かつ助詞ではないので、これらの語の手前に上がり目が現れています。
一方「ここはどこ」の場合、「は」は高起なれども助詞であるために遅上がりを止めることが出来ず、上がり目はその次の「どこ」の手前のほうに現れています。
「助詞は遅上がりを止められない」という性質は、表2の「ここから」のところによく現れています。
このように遅上がりというのはなかなかに奥が深いものではありますが、ひとまず「こういう発音癖がある」ということだけは覚えておいてください。