1-2. 助詞

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1-2-1 助詞

 格助詞(が・の・を・に・へ・から……など)や係助詞(は・も・さえ・こそ……など)については、京都言葉のそれと東京言葉のそれとの間に意味の違いはありません。
 ただし使い方に関しては、次のような違いがあります。

1-2-1-1 省略されがちな助詞

 現代の京都言葉には、助詞のうち「が・は・を・(引用の)と・へ」を省く傾向があります。

助詞省略の例文(括弧内が省かれる助詞)

「誰か、買い物(を)頼まれてくれへん?」
「私(が)行こか? 何(を)買うてくんの?」
「時計の電池(が)切れてなあ。ちょっと○○(へ)行ってきてほしいんや」
「え~っ、あのお店(は)遠いわー。近所で売ってるとこ(は)ないの?」
「ないこと(は)ないけど、○○のほうが安いにゃわ」
「そうかなー、ある(と)思うけどなー」
「まああんたが安い(と)思うお店で買うてきて。はいお金」
「いらんこと(を)言うんやなかった……ほないてきます」
「はい。おはようおかえり」

 これら以外の助詞(「に・の・(一緒にという意味の)と」など)が省かれることは基本的にありません。

 このような助詞の省略傾向はそれほど古くからあるものではなく、どうも幕末~明治時代以降に広まったもののようです。近世末期に京都で出版された文学の会話部分には、助詞の省略がほとんど見られぬからです。

1-2-1-2 接続の仕方が東京語とは異なる助詞

 東京言葉では、「行くだなんて言っていない」のように、動詞+断定の「だ」のあとに副助詞「なんて」が続くことも出来ますが、京都言葉では動詞+断定の「や」のあとに「なんて」が続くことは出来ません。

助詞「なんて」の付き方

  • ○:これなんてどうやろ?(名詞・代名詞のあとに付くことは出来る)
  • ○:期限が今日やなんて、今はじめて聞いた(名詞+断定の「や」のあとに付くことも出来る)
  • ○:買うたげるなんて言うてへん(動詞のあとに付くことも出来る)
  • ×:買うたげるなんて言うてへん(動詞+断定の「や」のあとに付くことは不可能)

 一番最初の「これなんて」のように、名詞・代名詞の直後に続く「なんて」は、「なんか」に置き換えることも出来ます。
 近畿圏には、2番目以下のような文でも「なんて」を「なんか」に置き換えることが出来る地域もあるようですが、少なくとも京都では出来ません。


1-2-2 京ことば特有の接続助詞や副助詞

 共通語にはなく、京ことばでは使われる接続助詞や副助詞としては次のようなものがあります。

「かて/●○」 (名詞・動詞・断定の「や・どす・です」の後など)

 名詞に付く場合は「~でも・~だって」という意味を表します。動詞のタ形(過去・完了形)や断定の助動詞に付く場合は「~としても」「~であったとしても」という意味を表します。

「かて」の例

  • 「お日いさんかて(お日様だって)、夜はお休みしやはる」
  • 「誰かて(誰でも・誰だって)朝は眠い」
  • 「そんなこと言われたかて(そんなこと言われたって)、急には無理や」
  • 「言わんかて(言わなくても)分かりそうなもんやろう」
  • 「そやかて(だとしても・だって)」
「さかい(に)/●○○(○)」 (動詞・形容詞・断定の「や・どす・です」の後など)

 順接の助詞で、東京語の「~するから」の「から」に相当します。最後の「に」は助詞の「に」で、その時の語調によって付いたり付かなかったりします。
 近世京都語には同じ意味の接続助詞として「~ゆえ(に)」「~ほど(に)」「~よって(に)」などもありましたが、近代以降の京ことばではこの「さかい(に)」がもっともよく使われるようになっています。

 例:「するさかい」「ないさかいに」「そうどすさかいに」「しますさかい

 話者によっては「はかい(に)」「さけ(に)」「はけ(に)」と訛って発音されることもあります。

「よって(に)/●○○(○)」 (動詞・形容詞・断定の「や・どす・です」の後など)

 意味・用法ともに先の「さかい(に)」と同じです。
 近世期にはよく使われ、今日でも年配層の会話資料にもそこそこ現れますが、現代の京ことばとしては「さかい(に)」のほうが優勢です。


1-2-3 間投助詞と終助詞

 間投助詞としては「」、終助詞としては「の(ん)がなぞ(ど)いなかいなかい」などがあります。

「な/◐」「なあ/●○」 (名詞・動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・動詞の連用形/連用+テ・形容詞の終止連体形・副詞・助詞「の」・断定の「や・どす/です」の後など)

 京都でもっともよく使われる助詞で、「あんなぁ、その人がなぁ、言うたはったんやけどなぁ」というように文中いたるところに現れます。京都の「な」には共通語のようなぞんざいな印象はまったくありません。老若男女とも、また敬語の中ででも使います。

 例:「しんどいなあ」「なかなかむつかしいもんどすなあ」

「ね/◐」「ねえ/●○」 (名詞・動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・副詞・助詞「の」・断定の「や・どす/です」の後など)

 使い方は「な」とまったく同じです。ただこの「ね」は共通語の影響で使われるようになったものですので、京都に元からあった「な」よりも使用頻度はかなり落ちます。
 生粋の京ことばを話される年代の方でも「そうどほぅね」というふうに、この「ね」を使われることがありますので、京都へはかなり早い時期に入ってきたのかもしれません。

「のや」に由来する「ね/○」とはアクセントで区別されます。

 例:「うまいもんやね」「そやね」

「の(ん)/○」 (動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・断定の「や・どす/です」の後など)

 「そうなん?」「するん?」などと使います。共通語では「そうなの?」「するの?」というとやや女性語的な印象がありますが、京都では男女共通語です。
 なお会話ではしばしば「ん」になります。ただし直前に「ん」がある場合は常に「の」のままです。

 例:「そや?」「ほんまな?」「これ、もろてもかまへん?(『かまへんん?』とはならず。「ん」に続く「の」は「の」のまま)」

「わ/●または○」 (動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・断定の「や・どす/です」の後など)

 共通語と違い、京都では男女共通語です。

 例:「もう行くわ」「よう言わんわ」

「や/●」 (動詞連用形/連用+テや助動詞「やす」等、希求・勧誘表現の後など。命令形や禁止の「な」につけるのは卑語)

 希求・勧誘表現の後ろに添えて、語調を整えたり意味を強めたりします。詳しくは動詞の章の「多様な連用形」をご覧ください。

「がな/○○」 (動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・断定の「や・どす/です」の後など)

 これは共通語にない表現なので少し説明が難しいのですが、だいたい「~ってば」「~ったら」と置き換えれば意味が通ります。また「~じゃないか」という反語的な意味を表すこともあります。

 例:「あんたがすんにゃがな(あんたがするんだってば)」「言われいでもするがな(言われなくてもするってば)」「ここにあるがな(ここにあるじゃないか)」

「ぞ(ど)/○」 (名詞・動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・断定の「や・どす/です」の後など)

 共通語の「ぞ」と意味も使い方もほぼ同じです。かつては訛って「ど」となることもあったようですが、今日では稀です。

 例:「よそ見してたら間違えんど(間違えるぞ)」「しまいに怒んぞ」

「で(ぜ)/○」 (動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・断定の「や・どす/です」の後など)

「ぜ」のほうが元の形で「で」はその訛りですが、現代ではもっぱら「で」のほうがよく使われます。東京語の「ぜ」同様に「ぞえ→ぜえ→ぜ」と変化したものですが、意味や使い方はむしろ共通語の「よ」に通じます。そのため東京語の「何々しようぜ」のような、誘いかける用法はありません。
 年齢性別問わずよく使われますが、京ことばでは普通、女性は語感の柔らかい「え」のほうを使います。

 例:「そら、ないで」「そこにはありませんで」

「え」と異なり、この「で」は名詞に直接付けることはできません。

「え/●」 (名詞・動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・副詞・助詞「の」・断定の「どす/です」の後など)

 共通語の「よ」に相当する助詞です。おそらく「よ」が (yo→ye→e) と変化したものでしょう。
 やや女性語的ではありますが、女性専用語ではありません。元は男女ともに用いられた助詞です。

 例:「そうえ」「はよせなあかんえ」

「誰」「どう」「何」などの疑問詞にあとに直接つけて、「誰え」「どうえ」「何え」のように言うこともできます。ただし間に「どす」が挟まった「疑問詞+ドス+エ」という言い方はあまり一般的でなく、「誰どすえ」「どうどすえ」「何どすえ」などという言い方はまず使われません。

「い/○」 (格助詞・断定の「じゃ」・助詞「わ」の後など)

 古語辞典で「い」を引くと、「中世以降『よ』が変化したもの」とあります。おそらくその「い」がこれでしょう。とはいえ今やほとんど死語化していて、「何じゃい」「誰じゃい」「するわい」などの限られた表現にしか使われません。
 なおこの例で言いますと、「何じゃい」「誰じゃい」には単純な「何や」「誰や」に比べてやや「呆れ」ないし「苛立ち」が、「するわい」には「するわ」に比べて反語的ニュアンスが、それぞれ添えられています。

「いな/○○」 (疑問詞+格助詞・動詞連用形/連用+テ・断定の「じゃ」・助詞「わ」の後など)

 助詞「い(「よ」が変化したもの)」と助詞「な」とが組み合わさったもので、意味を強調するのに使われます。語構成は共通語の「よな/よね」と似ていますが、「いな」の場合、共通語の「よな/よね」ほど用法が広くありません。

  • 「しいな」「やめいな(ヤメーナと発音)」にように動詞連用形に付いて、「なさいってば」「なさいったら」の意味を表す。
  • 「見ていな(ミテーナと発音)」「書いていな(カイテーナと発音)」のように動詞連用形+テの形に付いて、「見てってば」「書いてったら」の意味を表す。
  • 「なんでいな」「誰がいな」のように疑問詞+格助詞という組み合わせに付いて、共通語の「だよ」にあたる反語の意味を表す。

 現代ではこの3通りに大別されます。
 この他、「何じゃいな」「するわいな」など「い」と同じ位置で使うことも出来ます。この場合、「い」単独の場合に比べてやや柔らかいニュアンスが加わります。

「かいな/●○○」 (終助詞「か」と同じ位置)

 共通語の「っけ」「だっけ」に当たります。何かを思い出す時に自問するような、周囲の人に確認するような、そんなニュアンスで使います。

 例:「これ、何やったかいな」「今度の日曜て何日やったかいな」「次はあんたの番かいなあ」

「かい/●○」「かいな/●○○」 (終助詞「か」と同じ位置)

 ともに反語を言い表すとき使います。意味は同じですが、「かいな」のほうが柔らかい表現です。
 京都語では「質問なら『か』、反語なら『かい・かいな』」と使い分けられます。そのため共通語のように「そんなことするか」という文が「そんなことするの?」という質問を表したり、「そんなことするかよ」という反語を表したりすることはありません。

 例:「誰がそんなこと言うかい」「それホンマかいな」

「け/●」 (終助詞「か」と同じ位置)

 意味は「か」と同じですが、こちらはかなりぞんざいな言葉です。この「け」を生理的に受け付けないと言う人も少なくありませんので、「意味は知っているけれども自分では使わない言葉」にとどめておいたほうが良いでしょう。

 例:「おまえ、これ要るけ?」「ふざけてんのけ?」

「よ/○」 (名詞・動詞と動詞型に活用する助動詞の終止連体形・形容詞の終止連体形・副詞・助詞「の」・断定の「どす/です」の後など)

 さてもっとも扱いに困るのがこの「よ」です。
 まず命令形や禁止形に添える「よ」、たとえば「せい」「見い」や「言うな」「書くな」と言う場合の「強調の『よ』」は京本来の言い方と考えられます。しかしそれ以外のところで用いられる「よ」、たとえば「~する」「行く」などの「告知の『よ』」は、どうにも共通語臭い響きがあるのです。

 意味が「で」や「え」とまったくかぶっていることと、「そやで」とは言っても「そやよ」とは言わないなど接続の仕方に制限があることから考えるに、この「告知の『よ』」はおそらく共通語によってもたらされた言い方なのでしょう。
 とはいえ、「よ」が数々の古典文献で多用されているということは、元々この助詞が京都でも使われていたという証でもありますので、正確には「一度は死語化した言葉が共通語の影響でよみがえった」と考えるのが妥当かもしれません。

表1 助詞の接続の仕方
の(ん)がなぞ(ど)いなかい(な)・け
名詞の後 ××××××*1
断定「や」の後 ××*2*2××
丁寧「どす/です・
ます・おす」の後
×××
動詞の後
(終止連体形)
形容詞の後
×××
動詞の後
(連用形)
××××××××××
動詞の後
(連用+テ)
××××××××××
連体「な」の後 ××××××××××××
助詞「の」の後 ×××××××

 一方、東京言葉で使われる「それでさ」「こういうふうにさ」などの「さ」や、「これ読んだっけ?」などの思い出しの「っけ」は、京ことばには存在しません。
 これらは共通語の影響を強く受けている世代の京都言葉では使われることもありますが、その場合でも東京言葉の「そうだっけ」に対応する「そうやっけ」のような言い方だけは、語尾が「~たっけ」「~だっけ」にならぬため違和感がかなり強く、まず使われません。


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