「絵」「木」「手」「名」などの1拍語は語尾を引いて、「絵ぇ/○●」「木ぃ/○●」「手ぇ/○●」「名ぁ/●○」とあたかも2拍語であるかのように発音されます。
この発音傾向は助詞がついたときにも、「手ぇが痛い」「絵ぇを描く」などのように現れることがあるため、現代京都語には純粋な1拍名詞がないというふうにも言えます。
いわゆる「こそあど」体系です。
近称 | 中称 | 遠称 | 不定称 | |||
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指示 | これ ●● |
それ ●● |
あれ ●○ *1 |
かれ ●○ |
どれ ●● |
だれ ●● |
場所 | ここ ○● |
そこ ○● |
あこ ○● あそこ ○○● |
どこ ●● |
||
方向 | こちら ○○● こっち ○○● |
そちら ○○● そっち ○○● |
あちら ○○● あっち ○○● |
どちら ○○● どっち ○○● |
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形容 | この ●● |
その ●● |
あの ●● |
どの ●● |
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様態 | こう ●● |
そう ●● |
ああ ●● |
どう ●● |
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こんな ●●● |
そんな ●●● |
あんな ●●● |
どんな ●●● |
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こない ●●● |
そない ●●● |
あない ●●● |
どない ●●● |
共通語と異なる特徴として、場所の遠称に「あこ」という表現があります。
また中称「そ‐」の系列には、語頭子音[s]が[h]に転じた「そんな→ほんな」「それなら→ほれなら」という言い方もあります(参照⇒京ことばの音韻・「サ行」→「ハ行」)。
なお一応上の表には入れてありますが、書物によっては「こない‐そない‐あない‐どない」の系列は大阪方言であるとする見方もあります。
1人称代名詞には次のようなものがあります。
男女とも |
わたくし /●●●● わたし /●●●(わたくしの短縮形) |
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男性用 |
僕 /●○ 俺 /●● わし /○●(わたしの短縮形) |
女性用 |
あたし /○○●(わたしの変化形) うち /●○ |
「わし」は若年層でも使うことがあります。
「うち」が使用される世代や場面は比較的限られていて、中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典データCD-ROM』の注記によりますと、京都市旧市街で「うち」を使うのは明治40年頃以降に生まれた方のようです。また使用すると答えた方の間でも、「改まった場で使うような言葉ではない」という認識を持たれているようです。
また表に挙げたものの他にも、「あたし」の変化形「あて」や、特殊階級の中でのみ用いられる人称代名詞というものもあります。
2人称代名詞には次のようなものがあります。
そしておおむねこの順番で品格が下がってゆきます。
伝統方言である京ことばでは「あなた」はほとんど使われず、「あなた」が変化した「あんた」をもっぱら使います。また丁寧さを増すために「さん」付けして、「あんたはん /●○○○○」のようにも言います。
3人称代名詞には次のようなものがあります。
ただし京都でも共通語同様に、名前が分かる人のことを話題にする時はその人の名前を直接呼ぶのが普通で、2人称代名詞や3人称代名詞の使用は避けられる傾向にあります。