四つ仮名(よつがな)とは「じ・ぢ・ず・づ」のことを指します。これら四つの仮名はもともと別の音を表していましたが、16世紀頃から「じ」が表す音と「ぢ」が表す音、「ず」が表す音と「づ」が表す音がそれぞれ混同されるようになり、17世紀末には現代と同じような状態になっていたと考えられています。
――というのが四つ仮名について行われる一般的な説明ですが、実のところこの記述は、当時の中央語であった京都近辺の言葉に対してのみ当てはまるものです。関東では京都よりも早く四つ仮名の混同が進んだとされ、逆に九州では17世紀末になってもまだ四つ仮名を言い分けていたらしいことが当時の文献、『蜆縮凉鼓集』の凡例から窺えます。
それどころか現代でもまだ四つ仮名を言い分ける地域は存在します。もっとも有名なのは高知で、ついで鹿児島や宮崎なども四つ仮名の区別を残す地域として名前を挙げられます。こうした地域の方言は時に「四つ仮名弁」とも呼ばれます。
しかしながら今やこうした地域でも、四つ仮名の区別は消えてゆきつつあるようです。原因としては、1) ラジオ・テレビの普及により、四つ仮名の区別がない共通語を毎日のように耳にするようになったこと、そして、2) 四つ仮名の区別を残す地域への配慮がされていない現代仮名遣いを常用していること、などが考えられます。
地域的にとはいえ、せっかく現代まで受け継がれてきた四つ仮名の区別がこのまま失われてしまうとしたら何だか勿体ない気もします。それに四つ仮名が聞き分けられる耳を持っていると、外来語を学ぶ時にも有利になるという側面があります。例えば「ず」と「づ」の違いが分かれば、英語の "cars" と "cards" の違いも容易に聞き取れます。同様に「じ」と「ぢ」の違いが分かれば、"measure" と "major" の違いも容易に理解できます。
そこで今後とも四つ仮名の区別を受け継いでゆきたいという当該地の方や、新たに四つ仮名の区別を習得したいという方向けに分類表を作ってみました。
現代日本人の多くはザ行音を発音する時に、舌先がどこにも当たらない「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ [za ʒi zu ze zo]」と、音の出始めで舌先が上あごに触れる「ヅァ・ヂ・ヅ・ヅェ・ヅォ [dza dʒi dzu dze dzo]」とを無意識に併用しています。無意識であるがゆえに、ほとんどの人はこれら「2種類のざじずぜぞ」を聞き分ける習慣がない、または聞き分けるための注意を払っていないというのが実情です。
しかしこのことは、四つ仮名の区別を習得するために、常日頃から四つ仮名を言い分けていても他人から気づかれにくいということでもあります。
なお高知の場合、四つ仮名を区別する話者の「ヂ [dʒi]・ヅ [dzu]」は、d音がかなり強く発音され、時に「ディ・ドゥ」のように聞こえることもあります。これは「チ [tʃi]・ツ [tsu]」の場合も同様で、t音が強く「ティ・トゥ」のように聞こえることもあります。
音声学では「サシスセソ」の子音部分のことを「摩擦音(まさつおん)」といい、「タテト」の子音部分のことを「破裂音(はれつおん)」といいます。タ行の中でも「チ」と「ツ」の子音は、破裂音の性質と摩擦音の性質とを兼ね備えていることから、「破擦音(はさつおん)」と呼ばれます。
これらの用語を用いて先ほどの文章を書き直すと、「現代日本人の多くは、無意識のうちにザ行の子音を摩擦音([z]や[ʒ])で発音したり破擦音([dz]や[dʒ])で発音したりする」というふうになります。
この類はすべてザ行です。主なものを抜粋します。
この類もすべてザ行です。