ラテン語の名詞には「性別」というものがあり、すべての名詞は必ず「男性・女性・中性」のどれかに分類されます。
そしてラテン語の名詞は「数」及び「格(文における名詞の機能・役割)」の違いによって語形が変化します。「数」には「単数・複数」の2種類があり、「格」には次の7種類があります。
名詞の語形が数や格によって変化することを「曲用」と言います。
前記7格のうち最後の地格は古典期の段階で既に消滅しかかっていて、普通名詞ではdomus(家、自宅、建物)、humus(地面、大地)、rūs(農村、田舎)ぐらいにしか現れません。そのためラテン語の格数は地格を除いた「6格」とするのが慣例です。当サイトでもこれに従い、地格については一覧表にも含めていません。
それぞれの格の詳しい用法については別の頁で改めて取り上げます。
主 な 性 |
単数 | 複数 | 備考 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
主格 | 呼格 | 対格 | 属格 | 与格 | 奪格 | 主格・ 呼格 |
対格 | 属格 | 与格・ 奪格 |
|||
第1曲用 Ā幹 |
女 | -a | -am | -ae | -ā | -ae | -ās | -ārum | -īs | 単数地格 -ae | ||
男 | -ās | -ā | -am/-ān | -ae | -ā | ギリシア語由来の一部名詞で のみ使用。複数形は上に同じ。 |
||||||
男 | -ēs | -ē/-ā | -ēn | -ē/-ā | ||||||||
女 | -ē | -ēs | -ae | -ē | ||||||||
第2曲用 O幹 |
男 | -us/無し (古 -os) |
-e | -um (古 -om) |
-ī | -ō | -ī | -ōs | -ōrum | -īs | 単数地格 -ī | |
中 | -um(古 -om) | -a | ||||||||||
中 | -on | -ī | -ō | ギリシア語由来の一部名詞で のみ使用。複数形は上に同じ。 |
||||||||
男女 | -os | -e | -on | |||||||||
男女 | -ōs | -ō/-ōn | -ō/-ī | |||||||||
第3曲用 子音幹 |
全 | -s/無し | -em | -is | -ī | -e | -ēs | -um | -ibus | |||
第3曲用 I幹 |
男女 | -is | -im/-em | -ī/-e | -ēs | -īs/-ēs | -ium | |||||
中 | -e/無し | -ī | -ia | |||||||||
第4曲用 U幹 |
男 | -us | -um | -ūs | -uī | -ū | -ūs | -uum | -ibus | |||
中 | -ū | -ū | -ua | |||||||||
第5曲用 Ē幹 |
女 | -ēs | -em | -ēī/-eī | -ē | -ēs | -ērum | -ēbus | ||||
主 な 性 |
主格 | 呼格 | 対格 | 属格 | 与格 | 奪格 | 主格・ 呼格 |
対格 | 属格 | 与格・ 奪格 |
備考 | |
単数 | 複数 |
ギリシア語からの借用語においては特殊な曲用(表中の着色されている箇所)が使われることもありますが、最初のうちは覚えなくても大丈夫です。ラテン語聖書には第1曲用の男性名が比較的よく出てきますが、第2曲用のものはほとんど見かけません。
ラテン語の辞書や参考書などでは、名詞の曲用(格変化)パターンを示す際、その名詞の単数主格の形と単数属格の語尾とを並べるという方法が使われます。
例えば辞書に "porta, ae." と書いてあれば、それは「単数主格は porta、単数属格は語尾の部分が -ae に変化して portae となる」ことを意味しています。そして上の表を見ますと、単数主格の語尾が -a になり単数属格の語尾が -ae になるのは、「第1曲用」型の変化をする名詞であることが分かります。
このように名詞の変化パターンをスムーズに把握するためにも、単数の属格語尾は真っ先に覚えることが望ましいと言えます。
曲用語尾の部分は表を見れば母音の長短が分かりますので、辞書の見出しではしばしば曲用語尾のみ母音の長短の表記が省略されます。例:ūnus, i(正確には ūnus, ī).
ラテン語の名詞の中には、単数の主格と呼格のみ語幹が他の格と異なるものがあります。例えば「時」を意味する第3曲用名詞は、単数主格と同呼格とにおいては tempus という形になりますが、それ以外の格の時は「tempor+曲用語尾」という形になります。
このような語については、辞書では "tempus, oris" のように、語幹が変化する部分にまで遡って属格の形が示されます。そして単数の主格と呼格以外の語形は後者(単数属格形)の語幹から導き出します。
辞書や文法書ではラテン語の名詞について次のような省略語がよく使われます。
m.(masuculine: 男性名詞) | f.(feminine: 女性名詞) | n.(neuter: 中性名詞) |
nom.(nominative: 主格) | voc.(vocative: 呼格) | acc.(accusative: 対格) | gen.(genitive: 属格) |
dat.(dative: 与格) | abl.(ablative: 奪格) | loc.(locative: 地格) |
人物を表す名詞の中には、男性名詞としても女性名詞としても使われるもの(通性という)があり、そのようなものに対しては c. や comm. (どちらも commonの略)のような省略語が使われることもあります。
これらのうち名詞の性別を表す m., f., n. は本サイトでも使うことがあります。