N2. 名詞の基本5類その1（第1、第2、第4、第5曲用）

N2-1. 第1曲用・Ā幹

　この曲用に属する名詞は大半が女性名詞です。

　第1曲用であっても男を意味する名詞は男性名詞です。例：「agricola. 農夫」「nauta. 水夫」「pāpa. 幼児語で父。パパ」

　次のような例外的語尾が現れることもあります。

• familia（家族）という名詞は、pater（父）, māter（母）, fīlius（息子）, fīlia（娘）のどれかと組み合わされる時、単数属格に古形の familiās が現れる。原則通りの familiae も可能。
• 複数の与格・奪格で、-īs のかわりに -ābus が使われることもある。これは他の名詞（たいてい第2曲用の男性名詞）との混同を避けるため。次の3語が典型例だが、他の名詞でも使われる。
  • fīlia（娘。fīlius［息子］の複数与格・奪格 fīliīs と区別するため）
  • dea（女神。deus［男神］の複数与格・奪格 deīs と区別するため）
  • anima（息吹、命、魂。animus［理知、思考］の複数与格・奪格 animīs と区別するため。ただし教会ラテン語でのみ）
• 地名を表す名詞では単数地格として -ae で終わる形が現れる。例：Rōmae（ローマにて）
• 詩・韻文では単数属格に-āīが使われることもある。例：aulāī（中庭の）
• 複数属格として、-ārum のかわりに -ūm/-um が現れることもある。

N2-2. 第2曲用・O幹

　原則として第2曲用に属する名詞のうち単数主格が-us, -rで終わるものは男性名詞、-umで終わるものは中性名詞です。

　-usで終わるO幹名詞でも次のものは例外的に女性名詞です：1) 木・町・島の名前、2) Aegyptusのような一部の国名。3) 例外5語「alvus（腹）、 carbasus（亜麻、リンネル）、 colus（糸巻き棒［第4曲用型変化も］）、 humus（地面、大地）、 vannus（籾殻を吹き飛ばす扇）」、4) いくつかのギリシア語由来の語「atomus（アトム）、 diphthongus（二重母音）」
　また次のものは例外的に中性名詞です：pelagus（海。ギリシア語より）、 vīrus（毒）、vulgus（群衆）。

　呼格が主格と異なる形になるのは、この第2曲用の男性名詞・単数形においてのみです。第2曲用の呼格の用例としては、キリスト教の「Domine（主よ）」やカエサルの「Et tū, Brūte!（おまえもか、ブルートゥスよ！）」などがよく知られています。

　曲用語尾のうち -us と -um は、元はそれぞれ -os, -omという形でした。これらは古典期には既に一般的ではなくなっていたものの、こと -vus, -vum, -quus で終わる名詞（即ち子音 [w] の直後）においては、カエサルやキケローの時代まで古い語尾（-vos, -vom, -quos, -quom) が使われていたようです（おそらく [-wu-] より [-wo-] のほうが発音しやすいため、[w]の直後に限って元々の語尾 -os, -omが残った）。

　語尾については次のような形が現れることもあります。

• 共和政ローマの終わり頃まで -ius, -iumで終わる名詞の単数属格は -īと書かれた（原則通りなら -iī）。この時アクセントの移動は起こらず、-īの直前がたとえ短母音でもそこにアクセントが来る。
• -iusで終わる固有名詞の単数属格と単数呼格も -īと書かれる（原則通りならそれぞれ -iī, -ie）。これもやはりアクセントの移動は起こらず。
• fīlius（息子）の単数呼格は -ī（原則通りなら -ie）。
• deus（ローマの多神教における神々のうちの一人の男神）は呼格がなく、主格のdeusがそのまま呼格として使われる。また複数形にはパターン通りの形の他に縮約形が併存する（複数主格と呼格 deīと dī、与格と奪格 deīs, dīs）。
• 地名を表す名詞では単数地格として -ī で終わる形が現れる。例：Corinthī（コリントスにて）
• 次のような名詞において、複数属格としてパターン通りの -ōrumの代わりに -um（古典期中に -ūmから -umへ変化）が使われる。
  • お金や単位を表す名詞：talentum（タレント［重量や貨幣単位］の）、modium（モディウス［乾物の単位］の）。
  • duumvir/duomvir, triumvir, decemvirなどにおいて。
  • deusの複数属格にはdeōrumとdeumとが併存。
  • 時にその他の名詞でも。

N2-3. 第4曲用・U幹

　原則として第4曲用のうち単数主格が-usで終わるものは男性名詞で、-ūで終わるものは中性名詞です。

　-usで終わるU幹名詞でも次のものは例外的に女性名詞です：1) acus（針）、domus（家）、manus（手）、porticus（柱廊・アーケード）、tribus（部族）、Īdūs［複数］（一ヶ月の真ん中の日。3、5、7、10月の15日、他の月の13日。日付を言う時の基準として使われる）など。2) 樹木の名前。
　U幹の中性名詞は数が少なく、よく使われるのは次の3語のみです：cornū、genū（膝）、verū（串）。

　U幹名詞においては次のような語尾が使われることもあります。

• tribusの複数与格および奪格は常に tribubus で、パターン通りの tribibus という形は使われない。
• 次の名詞にも複数与格および奪格に -ubus が現れる：
  • 単数主格が-cusで終わる2音節名詞：acus、arcus（弓）、lacus（池）、specus（洞穴）など。
  • その他：artūs［複数］（肢体）、partus（出産）、genū、verū など。
• -us型名詞の単数与格として、-uī の代わりに -ū が使われることもある。例：frūctū（frūctuīの意味で）。
• 初期のラテン語（古典期より前）では、-us型名詞の単数属格に第2曲用風の-īが現れることもある。これはPlautusやTerentiusの書いたものに顕著とされる。例：adventī（接近、到来）、senātī（元老院）、ōrnātī（装飾）。

N2-4. 第5曲用・Ē幹

（以下未完成）