お知らせ

目次

イタリック版配布終了のお知らせ

 以前このあたりに書いたことの続きとなりますが、2024年の終わりとなっても何の動きも見られないことからAdobe-Japan1-8はもうないと判断し、TrueType版(以下TTF版)の検討を始めることにしました。
 今配布しているPostScriptベースのOpenTypeフォント(以下OTF版)と同数のTTF版をラインナップに追加するか、あるいは完全にTTF版のみに切り替えてしまうかはまだ決めていませんか、どちらにしましても数が多いと変換作業もその後の管理や更新も大変になってしまいますので、この機会にラインナップを減らすことにしました。

 次のフォントは近いうちに公開を終了します。終了時期は2025年の1月中のどこか(お正月が終わって思い出したタイミングで)を予定しています。

 日本語フォントでイタリック版というのはあまり一般的ではなく、有名フォントではメイリオぐらいにしか存在しないのではないかと思われます。
 それでもあえてイタリック版を用意したのは、Adobe-Japan1コレクション(以下AJ1)にはイタリックグリフが含まれているので、AJ1互換フォントを目指すならその過程における副産物として比較的容易に作れること、そしてレアであるがゆえにラインナップに加えれば少しは注目度が上がるかもしれないという期待があったことなどが理由です。

 しかし現実には注目度が上がるようなこともなく、さらに今回Adobe-Japan1云々についても区切りをつけることにしましたので、イタリック版はこのあたりで幕を引くことにしました。

 なお霧ゴシック、霧明朝、さらら明朝の3フォントファミリーは、AJ1互換フォントを目指していた関係でローマン版の中にもイタリックグリフが含まれていますが、少なくともさらら明朝に関してはどこかのタイミングでこの「ローマン版の中に含まれるイタリックグリフ」も削除してしまうことを予定しています。

経緯と今後

※ここから先は裏話的なものに興味のある方だけお読みください。

これまでの経緯

 /eyeben/fonts/ 以下にあるフォントを配布している頁は、「二つの『え』の話」というサイトの中にある「フォント」というタイトルの章、というのが元々の位置づけです。
 2014年8月以降は独自の更新履歴を設けたせいで、ひょっとしますとフォント配布頁自体が独立したサイトのように見えているかもしれませんが、実際は前述の通りです。

 𛀀𛀁の2字が符号化されることが確定したのは2010年4月(当フォント配布頁開設3ヶ月前)だったのですが、この時点ではこれら2字が表示可能なフォントというものは当然のことながら皆無でした。
 この2文字が豆腐になってしまう心配をすることなく安心して使えるようにするにはどうすれば良いかと考えた時、真っ先に思いついたのが「Adobe-Japan1に加えてもらう」という方法でした。当時はフォントに関する知識をほとんど持ち合わせていませんでしたが、日本語フォントの多く、特に(フリーフォントではなく)商品として販売されているものはほぼすべてAdobe-Japan1コレクションに準拠しているということはたまたま知っていました。
 公式にはアナウンスされていないようですが、マイクロソフト社のメイリオもAdobe-Japan1コレクションに依拠した作りになっています。

 そこで、当時Adobe-Japan1コレクションを管理していた方に思い切ってメールしてみて、「今度こういう2字が今度符号化されることになったので、Adobe-Japan1の次の増補(当時はAdobe-Japan1-6が最新でしたので、次はSupplement 7)に加えていただけないでしょうか」と直訴してみました。
 相手は世界的IT企業のDr.ですので、正直、軽くあしらわれるどころか無視されることも覚悟していたのですが、Ken Lunde氏はとても親切に対応してくださり、先の2字はめでたく候補に加えていただけることになりました。
 ただし「候補にすること」というのは、Adobe-Japan1-7(以下AJ1-7)を策定する時が来たらこの2字についてもSupplement 7に加えるかどうか検討してもらえるという意味で、必ずしも「AJ1-7入り内定」を意味しません。このあたりはKenさんからも釘を刺されました。

 実際のところ、この時点で𛀀𛀁の2字がAJ1-7入りする可能性がどの程度あったのかは今となっては分かりません。ひょっとしたら候補に入れるというのも大した意味はなく、要望が来れば誰に対してもそう答えていたのかな、などと考えないこともないのですが、少なくとも当時は「思いの外好感触だったな」という受け止め方をしたことは覚えています。

 Kenさんは私個人に対しては色々良くしてくださり、その点においては感謝に堪えません。ただ私の提案した文字に対しては特に気にかけてくださるようなことはなかったというのも事実です。後に源ノ角ゴシックが登場した時に、1B000..1B001の2字も次の更新時には入れてほしいとお願いしたのですが、今に至るまでこの2字は加えられていません。もっとも、私の本命はあくまでAJ1-7のほうでしたので当時はあまり深刻にとらえないようにしていましたが。

 時系列は2字をAJ1-7候補に加えていただいた直後(確か翌週ぐらいだったと記憶しています)に戻ります。ISO/IEC 10646(Unicodeの元となっている国際規格)界隈でちょっとした事件がありました。文字の追加手続きのための投票がすべて済んだ後になって例示グリフが下図右に差し替えられてしまったのです。

 お世辞にも𛀀は一般認知度の高い字とは言えません。そのためUnicodeのチャートで示された形のまま実装するフォントが出てくる危険性も考えられます。しかし差し替え後の形では他のカタカナと調和しないことは明らかです。
 せめて2画目の横線を水平にできないかチャート担当者にも連絡を取って手を尽くしてみたのですが、この差し替えは日本NB(ISO/IEC 10646を担当している委員会における日本代表団)の要求によるものであって、個人ではどうにも対抗できませんでした。

 そのチャート担当者になかば鎌をかける形で確認したところによれば、グリフはAdobeの委員より受け取ったとのことでした。ただその人自身が差し替えの首謀者というわけではなく、日本NB内にどうしてもグリフを差し替えたい委員がいて、その人にAdobeの委員が協力したという構図のようでした。

 Adobeが噛んでいるならと、Kenさんにも事情を話してそちらのルートで何とかならないかも試してみたのですが、やはりどうにもなりませんでした。右のグリフは今もUnicodeのチャートで使われ続けています。

 この件により、𛀀𛀁の2字がAJ1-7入りするのをのほほんと待つというわけにはいかなくなってしまいました。𛀀の適切な形を何らかの方法で世に示す必要が出てきたのです。
 このような経緯から当サイトのフォント配布頁は始まっています。

 2010年当時は漠然と2014年までにはAJ1-7は登場するのではないかと想像していました。AJ1が最後に大幅改訂されたのは2004年ですので、10年以内に一回ぐらいは手を入れるのではないかとの考えからです。
 AJ1-7に2字を含めてもらえた場合は、このフォント配布頁は頃合いを見てフェードアウトさせることも当時は考えていました。

 しかし2014年になってもAJ1-7に向けた動きはなく、代わりにSource Han Sans(源ノ角ゴシック)なるものがAdobeから登場しました。登場した時は、「ああ、これに関わっていたからAJ1-7どころではなかったのかな」と思うと同時に、「GoogleのNotoフォントシリーズと一体化したプロジェクトなら、この後は明朝版の開発に入るだろうからAJ1-7には当分取りかかれそうにないな」とも考えたことを覚えています。

 とはいえ、この時点ではまだ希望がありました。少しいやらしい言い方になりますが、先のグリフ差し替えの件で少しでもU+1B000に関して悪いことをしたと感じてくれているなら、AJ1-7の策定作業が始まればある程度は配慮してくれるのではないかとの期待があったからです。
 またこの時点では、UnicodeにあってAJ1コレクションに含まれていない仮名文字は1B000..1B001の2文字だけでしたので、その点も有利に働くのではないかと想像していました。

 2017年に予想通りSource HanのSerif版(源ノ明朝)が出て、2018年も折り返した頃になるとようやくAJ1の次の大規模Supplementの話がちらほら聞こえてくるようになりました。この時点では翌年の改元に対応するためU+32FFのみをAJ1-7として先に出してしまい、従来Supplement 7の候補だったものはそのままSupplement 8の候補として扱うというような話だったと記憶しています。
 しかしその翌年、予定通りAJ1-7が出た後に青天の霹靂としか言い表しようのない出来事が起こります。
 冒頭でリンクした頁にも書きましたように、Ken Lunde氏がAdobeを離れることになってしまったのです。

 これにより、𛀀𛀁の2文字をAJ1-7改めAJ1-8に入れてもらえるかどうか以前に、そもそもAJ1-8が登場するのかどうか自体が不透明な状況になってしまいました。
 ただ、AJ1-8に向けた要望リスト自体はAdobe社内に残っている可能性も考えられましたので、とりあえずキリの良いところまで様子を見ることにしました。

 ただこの「キリの良いところ」というのがいつなのか自分でもよく分かりません。結局のところは諦める踏ん切りがつかないというだけのことだったのでしょう。
 そうこうしているうちに写研のフォントが2024年に登場するというニュースが流れます。そこで冒頭でリンクした頁にも書きました理由により、この2024年という年を「キリの良いところ」に設定することにしました。

 その2024年もSupplement 8に向けた動きは何も見られないまま終わろうとしています。
 Kenさんは既にAdobeにいません。差し替えに協力した人もそろそろAdobeを退社するかしたか、そういうご年齢なのではないかと思われます。2010年の顛末を知る人たちはいなくなり、AJ1-8自体も見通しがもう立ちません。
 ちなみに差し替えを求めた張本人は今も生きているのかなと思いちょっと検索してみれば、国立な組織で大層な肩書きをお持ちのようです。

今後

 あちらを見てもこちらを見ても暗澹たる状況ではありますが、AJ1-8という援軍が来ない以上、敗戦処理を考えなくてはいけません。
 差し当たっては、ゴールを見失ったこのフォント配布頁をどうするかです。完全になくしてしまうことやこのまま放置することも考えたのですが、錦源の改刻ならびにグリフ増補作業が残り1~2%ほどというところまで来ているので、これぐらいは何とかリリースまで持って行きたいという思いも残っています。
 そうした諸々の事情を踏まえ、現時点では次のように考えています。

フォントの今後

 このリストにないフォントは既に自分自身で使用していませんので、すべて引退させます。

フォント頁の今後

 このフォント頁を開設した頃はこの2文字に対応しているフォントが世の中に存在しませんでしたので、現在に至るまで自作フォントのみが並ぶ形となっていますが、今は1B000..1B001に対応したフリーフォントもあるようですので、折を見てその一覧も作れればと考えています。

Windows付属の明朝体フォント

 こちらに書いたこととも重複しますが、Windows付属フォントにおいてはゴシック体(メイリオ、游ゴシック)のみ1B000..1B001に対応していて、明朝体フォント(MS 明朝、游明朝)は対応していません。
 Windows付属の明朝体フォントにもこの2字を入れてもらえないか色々模索してみたのですが、残念ながら実を結んでいません。

 ただ、以前Microsoft社とお仕事をしたことのある方が教えてくださった話によりますと、明朝体フォントというのは基本的にMS-Office用のものをWindowsにもバンドルしているという形になっているそうです。
 そこでWord付属の明朝体フォントに1B000..1B001の2文字を追加してほしいという要望を改めて出してみましたので、ご賛同いただけますと幸いです(左方にあります⇧を押すと投票できます。投票にはMicrosoftアカウントが必要です)。

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