2-1. え (e)・エ (je) 区分表・和語篇ウェブフォント版・通常版←

目次

凡例

語彙概説

 一見すると下の表にはそれなりの語数があるようですが、実のところ、えエの別が明らかで、なおかつ複合語でないものに絞ってみますと、これぐらいしか残りません。

ア行のえ [e] 由来であるもの
  • ア行下二段動詞の活用形および転成名詞
  • え(「可愛」の意の接頭辞)・え(嘆きの声)・え(可能の意味の副詞)・荏・榎(え・えのき)・えい(魚の)・棧・葡萄(えび)・鰕・夷(えびす)・蝦夷(えみし)・えめむし・えやみ・選ぶ・苗(はえ)・鵯(ひえとり)
ヤ行のエ [je] 由来であるもの
  • ヤ行下二段動詞や助動詞ユ・ラユの活用形および転成名詞
  • 机・鵺・鰷(はエ)・稗・比叡・笛・江・柄・兄(エ)・枝(エ・エだ)・良し/吉し/善し(エし)・エひ(帯か結いの東詞)

 言い換えますと、本表でえエの別が明らかとされている語は、上の基本語彙そのもの、またはこれらを構成要素とする複合語がほとんどです。
 複合語の中には、今日では複合語であること自体が分かりづらくなっているものもあります。例えば「かのエ【庚】」「きのエ【甲】」「つちのエ【戊】」「ひのエ【丙】」「みづのエ【壬】」の類は、元々「~の兄(エ)」という意味ですので、すべてヤ行のエ相当ということになります。

えエ区分表・和語篇

ア行下二段動詞の活用形(未然・連用・命令) 及び 転成名詞*7,*15

[證]
「安見児得たり*7」「得難き*7」「あり得む*7」「数へえず*7」「得てし*15」等。「得る」とその複合語のみ。證補は副詞の「え」もここに含めている。

ヤ行下二段動詞の活用形(未然・連用・命令) 及び 転成名詞*1,*2,*4,*5,*7,*8,*9,*11,*12,*13,*15

[證・衣・衣増・衣補]
「肖エ(あエ)*4」「零エ(あエ)*7」「脅エ*8」「思ほエ*7,*12」「聞こエ*2,*4,*5,*7,*9,*12」「消エ*15」「越エ(くエ)*7」「越エ(こエ)*4,*7」「栄エ(さかエ)*2,*7,*9,*11」「萎エ(しなエ)*7」「絶エ*1,*7,*15」「生エ*7」「立ち乱エ*7」「見エ*2,*4,*7,*8,*12」「萌エ*5,*7」「燃エ*7,*12」「若エ(わかエ)*11」「疩エ(をエ)*2」等。
ヤ行下二段動詞は他にも、「甘ゆ・嘶ゆ(いばゆ)・癒ゆ・覚ゆ・崩ゆ(くゆ)・凍ゆ(こごゆ)・肥ゆ・冴ゆ・饐ゆ(すゆ)・聳ゆ(そびゆ)・費ゆ・萎ゆ(なゆ)・煮ゆ・映ゆ/栄ゆ・冷ゆ・増ゆ・吠ゆ・まみゆ・悶ゆ」等がある。

『万葉集』の「也末古野由支」については大野(1977) に考察あり。曰く万葉集の巻一八には、奈良時代らしからぬ仮名遣いが「五箇所一八首」に集中して見られ、これは損傷を後の世に補修した結果ではないかとのこと。そして「也末古野由支」もその部分に含まれるとのことである。

助動詞ユ・ラユの活用形(未然・連用・命令) 及び 転成名詞*1,*7,*8

[證・衣増]
「か行けば人に厭はエ、かく行けば人に憎まエ*7」「寝らエ*7」「忘らエ*1,*7」等。

あがたぬしはエ(人名)【縣主波延*2・縣主葉江*4

[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

あこエ【距*14

[證・衣]
證補は「こエ」に「蹴エ」と当てる。

あべのはエひめ(人名)【阿部之波延比賣*2

[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

xあをひエ【竹刀】

[衣]
和名抄の「阿乎比衣」から。
衣延辨は後世「アヲヒユ」とも云うことを論拠に「エ」としているが、e/jeは混同後、共にjeになったとされているので、可能性としては「あをひえ → e/je混同 → あをひエ → あをひゆ」も残る。

いぬえ【𬜼(U+2C73C){苪の下に万}*13・蘇*16・假蘇*16・香薷*16

[證・衣・衣補]
證補は「え」に「荏」と当てる。衣延辨(補)は「犬荏」と当てる。「蘇 以奴衣 一名 乃良衣*16」「假蘇 乃々衣 一名 以奴衣*16
→ののえ・のらえ

いはくエ【岩崩*7

[證・衣]
衣延辨は「くエ【崩】」でも見出しを立てている。

いりエ【入江*2,*7

[證]

?いをのふエ【脬】

[衣補]
和名抄の「伊乎能布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。

うちエする【打ち寄する*7

[證・衣増]
衣延辨(増)は「エする」で見出しを立てている。

xうエふせり【瘼臥】

[衣補]
和名抄の「宇江不世利」から。
證補には同じ和名抄の例として「瘼卧・乎江布世利」も示されているが、同語ないし同源か。

え-(接頭辞)*2,*4

[證・衣増]
「え-をとこ*2」「え-をとめ*2」「え-ひめ*2」等。證補は「え」に「可愛」と当てる。「可愛此云哀*4
→ささらえをとこ

え【榎】

[證]
→えなつひめ・えのき

え(嘆きの声)*2,*4

[證・衣増]
「え、くるしゑ『嗟、苦しゑ』*4
「疊疊志夜胡志夜(ええしやこしや)*2」について──證補は『古事記伝』の「疊は盈の誤写」説を採って「盈々志夜胡志夜」とし、「盈々」を「エエ」と読むが、ここでは橋本(1970:204-211) 等にある「疊疊=亞々」説を採り、「ええ」と見なした。證補は「エエ」に「嗟」と当てる。

え(可能の意味を表す副詞)*6,*7,*12

[證・衣増]
「え見ずて*6」「えも名付けたり*7」「えこそ*12」。證補は動詞の「得」と区別せず。

え【荏*13

[證]

えかさ【𫈆(U+2B206){草冠に伽}*13

[證]
語義不明。證補には「衣加佐*13」とあり。證補は「え」に「荏」と当てる。「荏笠」の意味か。

xえかばら

[衣]
和名抄の「衣賀波良」から。衣延辨は暫定的に「え」としている。

?えぞ(地名)【蝦夷】

[衣]
衣延辨は蝦夷からの類推で「え」とする。

xえた(地名)【英多(信濃・加賀の郷名)】

[衣]
和名抄において信濃の「英多」には「衣太」と、加賀のそれには「江多」とそれぞれ振り仮名表記されていることから、衣延辨はこの「英多」を/e/←→/je/の振り分け対象として取り上げている(和名抄の振り仮名は「え・エ」混同後のものなので、この場合「衣」と「江」は同音)。
衣延辨は、1) 「英」の字の反切と、2) 志摩の「英虞」に「阿呉(あご)」、美作の「英多」に「安伊多(あいた)」、備中の「英賀」に「阿加(あが)」等の表記例があることとを論拠に、「英」はア行音であるとし、「英」を「え」に分類している。
しかしこの信濃・加賀の郷名の「英多」に関しては橋本(1970:216-218) に検証があり、古くは「あがた」と読まれていて、「えた」という読み方は後世のものである可能性が指摘されている(前述の美作の「英多」のほうは、本項と同表記にもかかわらず「あいた」であることにも注意)。
「英多」の「英」が「え」か「エ」かという問題は、「呉音以前に日本に伝わってきた古音と思しき『あい・あが(<[aŋ]?)』のような読み方から転訛したもの」と解釈するなら、衣延辨にある通り「え」の可能性が高いということになる。しかし「時代が下ってから漢音『エイ』の影響を受けて生じた読み方」と見るなら、「英」が「え」か「エ」かは字音研究に拠ることになる。

xえだち【役立】

[衣増]
衣延辨は、本居宣長の「えだち・えつぎの『え』は、疫(えやみ)の『え』と同源であろう」との説を引き、「え」としている。

?えち(地名)【愛知(近江郡名)・依智(遠江郷名)】

[衣]
衣延辨は、和名抄にはえエの区別がないので引くべきではないとしながらも、郡郷名はえエの区別があった奈良時代に決められたものであることを理由に、例外的に郡名・郷名だけは和名抄の例でも認めている。本表でもこの考え方に倣う。
「愛」「依」とも「ア行のえ」として用例あり

xえつぎ【課役】

[衣増]
衣延辨は上の「えだち」と同じ理由により「え」としている。

えつり【棧・蘆雚*4・槤*13・𬄺(U+2C13A){木偏に夢}*13

[證・衣]
證補は「棧」として分類。*13は2例中2例とも「衣豆利」。「えづり」か。

えなつ(地名)【得名津*7

[證]
證補は「え」に「榎」と当てる。

えなつひめ(人名)【荏名津比賣*2

[證]
證補は「え」に「榎」と当てる。

えのき【柃*13・榎*13・〓{木偏に夲。𪱻(U+2AC7B) の異体字か}*13

[證・衣補]
證補はすべて「榎」として分類。「榎(え)の木」の意。

えのやまのみささぎ・えのさんりょう(地名)【可愛之山陵*4

[證]
「筑紫日向可愛 可愛此云埃 之山陵*4

えひ【葡萄・木防已*13

[證・衣増]
證補には「神衣比*13」とあり。證補は「えひ」に「蒲萄」と当てる。
衣延辨は「かみえび」で見出しを立てている。
「ぶどう」の古名「えび」の2拍目の濁点なし表記。
→えびかつら・おほえびかつら

えひ【鰕・𬠂(U+2C802){虫偏に西}*13・魵*13・鰝*13・蝦*16

[證・衣]
證補はすべて「鰕」として分類。
甲殻類の「海老(えび)」のこと。2拍目の濁点なし表記。

えひ【鰩・鯕*14・鱓*16

[證・衣]
證補はすべて「鰩」として分類。
魚の「えい」のこと。
→からえひ

えびかつら【紫葛*16

[證・衣]
證補は「えび」に「蒲萄」と当てる。
→おほえびかつら

えびす【夷・蝦夷*8,*13

[證・衣]
證補はすべて「夷(えびす)」として分類。
→えびすくさ・えびすくすり

えびすくさ【夷草・茯*13・勺薬*14・決明*16

[證・衣]
證補は「えびす」に「夷」と当てる。

えびすくすり【夷薬・芍薬*16

[證・衣]
證補は「えびす」に「夷」と当てる。

?えびすね【地楡】

[衣]
和名抄の「衣比須禰」から。衣延辨は「えびす草の例」とする。

?えびすめ【昆布】

[衣]
和名抄の「衣比須女」から。衣延辨は「夷海藻なるべし」とする。

えびまらむし【蠖】

[衣増]
衣延辨(増)は字鏡からの例とするが、證補には記載なし。「衣比万良虫また止加介」

xえひら【蠶簿】

[衣]
和名抄の「衣比良」から。衣延辨は暫定的に「え」としている。

えみし【蝦夷*4

[證・衣]
證補は「夷(えみし)」として分類。

?えめむし【巤姑・蜲*13

[證・衣]
證補は「巤姑」として分類。
『日本国語大辞典 縮刷版』(小学館)によると、「えめむし」とは「節足動物『わらじむし(草鞋虫)』の異名」とのこと。

※橋本(1970:213) によると、新撰字鏡には「衣女虫(えめむし)」の他、「江女虫(エめむし)」と書いた例があるというが、證補・衣延辨とも後者は記載なし。国会図書館のアーカイヴでも前者は見つかれど後者は見つからぬため、ひとまづ '?' 記号付きとする。
「衣女虫」の例:十二巻本の例1(左頁1行目3字目「蜲」の下)例2(右頁3行目最後「虫+毎」の下)・抄録の例1(左頁下段4字目「虫+ム+毌」の下)例2(右頁下段終わりから3字目「虫+毎」の下)など。

えやみ【瘧・疫】

[衣]
衣延辨は字鏡からの例とするが、證補には記載なし。衣延辨は字鏡の「瘧(衣也三)」と和名抄の「疫(衣夜美)」とで別々に見出しを立てているが、ここではまとめた。

えやみくさ【疫草・龍膽*16

[證・衣]
證補は「えやみ」に「疫」と当てる。

えらぶ【撰】

[衣]
衣延辨では「エらみ」という語形で記載。衣延辨は似た意味の「選る(ヨル)」からの類推でヤ行の「エ」としているが、『西大寺本金光明最勝王経』『金剛波若経集験記』等に「えらぶ」表記あり。

おきつふかエ【沖つ深江*7

[證]

おほエ【大枝・大兄*10

[證]
「大枝謂大兄*10

おほえびかつら【𮑱(U+2E471){草冠に補}陶 一名 蘡薁*16

[證]
證補は「えび」に「蒲萄」と当てる。

おほはエのみこ(人名)【大羽江王*2・大葉枝皇子*4

[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

おほエのみこ(人名)【大枝王*2・大江王*2

[證]
證補は「エ」に「兄」と当てる。

!かのエ【庚】

[衣]
「金の兄」という語構成からしてOK。

かはまたエ(地名)【川俣江*4

[證]
證補は「エ」に「枝」と当てる。

xかもエ【鴨柄】

[衣]
和名抄の「賀毛江」から。衣延辨は鴨柄という字を論拠としている。

?かエ【茅】

[衣増]
万葉二十というが、證補には記載なし。
「茅(かや)」の東訛りか。

?からえ【萆麻】

[衣]
和名抄の「加良衣」から。衣延辨曰く「漢荏なるべし」
衣延辨の「萆」は下が「廾」

からえひ(かれひ)【王餘魚*16

[證・衣補]
證補は「えひ」に「鰩」と当てる。
「鰈(かれい)」の古名。「唐(から)のえイ(えい)」

!きのエ【甲】

[衣]
「木の兄」という語構成からしてOK。

くさかエ【日下江*2

[證]

くすかつらのはえ【鹿藿*16

[證]
證補は「はえ」に「苗」と当てる。

?くだのふエ【小角】

[衣]
和名抄の「久太能布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。

?こまぶエ【籥】

[衣補]
和名抄の「古万布江」から。
「狛笛」の意か。いづれにせよ「笛」なら「エ」でOK。

こエたり【嶫*14

[證]
證補は「こエ」に「肥」と当てる。

こエづち【肥土・墺*13

[證・衣補]

こエならふ【跒*13

[證・衣補]
證補は「こエ」に「越」と当てる。

さかはエ・さかばエ【栄映エ*4,*7

[證・衣]
衣延辨は「榮(さかエ)」と一緒に扱う。

さかエ【栄エ・栄枝(伊勢の野の~)*4

[證]
證補は「エ」に「枝」と当てる。

?さざエ【栄螺子】

[衣・衣補]
和名抄の「佐左江」から。衣延辨(補)に「續紀に螺江臣あり延に従ふべし」とあるが、證補には記載なし。

ささらえをとこ【月*7

[證・衣]

xさすエ【棬】

[衣]
和名抄の「佐須江」から。衣延辨は暫定的に「エ」としている。

さエだ【小枝*7

[證]

しづエ【下枝*2,*4,*7

[證・衣]

しもつエ【下つ枝*2

[證]

すはエ【機*13

[證・衣補]
證補には「須波江*13」とあり。證補は「エ」に「枝」と当てる。
衣延辨(補)は「楚」と表記。

すみのエ(地名)【墨吉*7・住吉*7・須美乃延*7

[證・衣]
證補は「エ」に「江」と当てる。
衣延辨は「住吉」と表記。

せえ【海蠺・尨蹄子*16

[證]
證補は「海蠺」として分類。「せ」の語尾を引いたものか。

せをのふエ【簫】

[衣]
衣延辨の「くだのふエ」「ふエ」のところに、字鏡には「簫」を「世乎乃不江」とする例があるというが、證補には記載なし。ただ證補には同じ字鏡の例として「簫」を「をのふエ」と読んだものが載っている。ひょっとすると「世/乎乃不江」と区切ったのがこの「をのふエ」か。
→をのふエ

つきがエ【槻が枝*2

[證]
「百足る槻が枝*2

つくエ【机】

[他]
訓点資料に例があるよう。『日本国語大辞典』(小学館)の「机」の項等を参照。

!つちのエ【戊】

[衣]
「土の兄」という語構成からしてOK。

なかつエ【中つ枝*2,*4

[證]

ながエ【轅*14

[證・衣]
「長柄」の意。證補には「輗 奈加江乃波志乃ク佐比*14」とあり。

ながエ(地名)【長枝・長江(恵賀の~)*2

[證]

なはエ【楉*13

[證]
證補には「奈波江*13」とあり。證補は「エ」に「枝」と当てる。

xなまえのき【荊】

[衣]
和名抄の「奈末江乃木」から。衣延辨は「生榎なるべきか」として、暫定的に「え」としている。

?ぬかえ【蘇】

[衣増]
和名抄の「乃良衣 一云 奴加衣」から。
「ののえ」「のらえ」の類なら「え」で良さそう。

ぬかすはエ【機】

[衣補]
字鏡の「弩可須波江」からとするが、證補の「須波江*13」と同じ箇所を、異なる区切り方で引いているだけの可能性あり。
→すはエ

ぬエ【鵺*2,*13・鶍*14

[證・衣]
證補はすべて「鵺」として分類。
衣延辨は「ぬエことり」と一緒に扱う。
→ぬエくさ・ぬエことり・ぬエとり

ぬエくさ【鵺草*2

[證・衣]
衣延辨は「偃草」として分類。

ぬエことり【鵺子鳥*7

[證・衣]
衣延辨は「ぬエ」と一緒に扱う。

ぬエとり【鵺鳥*7

[證]

xねエ【埴】

[衣補]

ののえ【假蘇*16

[證]
證補は「え」に「荏」と当てる。「野の荏」か。「乃々衣 一名 以奴衣*16
→いぬえ

のみのエ【樈*14

[證・衣補]
證補は「エ」に「柄」と当てる。

?のむどふエ【吭】

[衣]
和名抄の「乃無止布江」から。
「喉笛」の意か。いづれにせよ「笛」なら「エ」でOK。

のらえ【蘇*16

[證・衣]
證補は「え」に「荏」と当てる。「野良荏」か。「以奴衣 一名 乃良衣*16
→いぬえ

はえ【苗・澤柒*14

[證]
證補は「苗」と当てる。
→くすかつらのはえ

はエ【栄エ】

[證]
→あがたぬしはエ・あべのはエひめ・はエひめ・やかはエひめ

はエ【鰷・𬵍(U+2CD4D){魚偏に地}*13

[證・衣]
證補は「鰷」と当てる。衣延辨は「𩵔(U+29D54){魚偏に也}」と表記。

はエひめ(人名)【荑媛*4

[證・衣]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

?はらのふエ【大角】

[衣]
和名抄の「波良乃布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。

ひえとり【鵯*16

[證・衣]
この*16(『本草和名』)の「比衣止利」という仮名表記を信じるなら、語源を「稗鳥」とする説は成り立たず。衣延辨は和名抄「比衣土里」を引きつつ、「今ヒヨドリとも云也延なるべし」とする。
→ひエ

ひこばエ【蘖(孫生エ)・荑*13・稬*13

[證・衣]

ひこエ【孫枝・柯*8・杪*13・秒*13

[證・衣]
證補は「エ」に「枝」と当てる。

!ひのエ【丙】

[他]
衣延辨には「庚・甲・戊・壬」はあるのに「丙」がないので、独自に追加。
「火の兄」という語構成からしてOK。

ひエ【稗*7,*13

[證・衣]

!ひエ(地名)【比叡】

[衣]
比叡山・叡山のこと。
衣延辨曰く「古事記に『日枝(ひエの)山』とあり。又『日吉』とも書けり」
叡・枝・吉(=良【エし】)、いずれもヤ行のエであり一貫している。

ふなエ【㮈*16

[證]
證補は「なエ」に「㮈」と当てる。「奈以 一名 布奈江*16

ふエ【笛*4,*8

[證・衣]
→せをのふエ

ほつエ【上枝*2,*4

[證・衣]

ほりエ【堀江*7

[證]

まつだエのながはま(地名)【松田江の長浜*7

[證]

まつだエのはま(地名)【松田江の浜*7

[證]

!みづのエ【壬】

[衣]
「水の兄」という語構成からしてOK。

xみづエのたま【稚枝玉】

[衣増]

みエしの(地名)【美吉野*2,*4

[證・衣補]
證補には「美延斯怒*2」「美曳之弩*4」とあり。證補は(そして衣延辨も)共に「みエしぬ」と読んでいる。前者の「怒」は「ヌ」とも「ノ甲」とも読めるが、後者の「弩」は「ノ甲」と読むのが現代では原則なので、ここでは「みエしの」とした。
→エしの

ももエつきのき【百枝槻木*7

[證]

!もエぎ【萌黄】

[衣]
典拠は示されず。
「萌エ+黄」という語構成からしてOK。

!もエくひ【燼】

[衣]
和名抄の「毛江久比」から。
「燃エ+杭」という語構成からしてOK。

やがはエなす*2,*4

[證・衣補]
「夜賀波延那須*2」。證補は「はエ」に「榮」と当てる。
證補には*4の例として「那餓波曳灘須(十一)」があるが、これは「椰餓波曳」の誤写と見て、ここに加えた。
衣延辨(補)は「彌木榮」として分類。

やかはエひめ(人名)【八河江比賣*2・矢河枝比賣*2

[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

やくはエ・やぐはエ【八桑枝*11

[證・衣増]
證補は「はエ」に「生エ」と当てる。衣延辨(増)は「彌木榮」として分類。

エ【兄*2

[證]
「兄(年長の者)をしまかむ*2

エ【枝*2,*4,*7

[證]
「白樫が枝を*4」「本も枝も*7」「松が枝の*7」等。
→おほはエのみこ・おほエのみこ・しづエ・しもつエ・つきがエ・なかつエ・ほつエ・ももエつきのき・エだ・エだエだ・をはエのみこ

エ【江】

[證]
→いりエ・おきつふかエ・くさかエ・ほりエ

エかめ【元の下に亀のような字。黿に似ている*13

[證・衣補]
語義不明。證補は「エ」に「江」と当てる。

?エくに(地名)【兄國】

[衣]
伊勢郷名和名抄「江久爾」から。衣延辨は「兄國の字による」とする。
「えち」のところで書いた理由により、郡名・郷名は基本的に?とする。

エし【良し・善し・吉し*4,*7

[證]
證補はすべて「吉」と当てる。「エき*4」「エけむ*4」「エしも*7

エしの(地名)【吉野*4

[證]
證補には「曳之弩*4」とあり。證補は「エしぬ」と読んでいる。
→みエしの

エだ【枝*2,*4,*7,*15

[證・衣]
「榛が枝*4
→エだエだ

!エだ【肢】

[衣]
和名抄の「江太」から。衣延辨「枝に倣ふ」
「枝」と同源。

エだエだ【枝枝*4

[證]

xエな【胞衣】

[衣補]
衣延辨(補)は「兄」と同源として「エ」とするが如何。
橋本(1970:221-223) に検証あり。

?エの(地名)【頴娃】

[衣]
薩摩郡名和名抄「江乃」から。
和名抄記載の郡名・郷名であっても、読み方を示した部分の仮名表記(この例で言うと上の「江乃」)は、えエ混同後のものなので信頼できず。
ただこの語は、橋本(1970:200-204) に検証があり、それに基づきここでは?とした。

エひ*7

[證・衣増]
東歌。帯の訛りとも結(ゆひ)の転とも。

エびかづら【塩味葛*3

[證]
證補は「エび」に「蒲萄」と当てる。*3(『出雲風土記』)にだけ現れる表記で5例中5例とも「鹽味葛」。他の資料では「蒲萄」は「えひ」であることに注意。出雲の方言音が反映されたものか。

!エふり【朳】

[衣]
和名抄の「杷の無齒者江布利」から。衣延辨にもあるように「柄振」の意。

エむほうし【塩増絮*13

[證]
語義不明。證補には「江牟保宇之*13」とあり。「増」にホウと当てられている点疑わしい。

エら【鉺*14

[證・衣増・衣補]
「耳玉江良*14」。證補は「エら」に「揺ら」と当てる。
衣延辨(増)は「みみだまエら」としても見出しを立てている。衣延辨(増)曰く「是はゆに働きて玉ゆらなり」

エをぢ【阿伯*13

[證・衣]
「兄をぢ」の意。

をのふエ【簫*14

[證]
衣延辨には字鏡の例として「世乎乃不江」が載っている。「世/乎乃不江」と区切った例がこの「をのふエ」か。
→せをのふエ

をはエのみこ(人名)【小羽江王*2・小葉枝皇子*4

[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。

文献番号一覧(兼 『古言衣延辨證補』で検証せられている文献一覧)

おまけ・10世紀以前の文献に見当たらぬ語の場合

 10世紀以前の資料に用例が見つからぬ語や、え・エの混同後に生まれた語についても、語源や語構成からえ・エの別が推定できることがあります。『日本国語大辞典』の語源情報を参考に、そのような例をいくつかご紹介します。

えせ-(似非-)

「えせぬ(副詞の「え」+「せぬ」)」が約まったもの、という説に従えばア行のえ相当。
 また、「おそ」の母音が転じた、という説に従ってもやはりア行のえ相当。

えて吉・えて公

「えて」は「得手」の意味、とする説に従うならア行のえ相当。

えびす(戎・恵比寿)

「蝦夷」と同語源と思われるのでア行のえか。

えら(鰓)

「いら(苛)」と関係あり、とする説に従うならア行のえ相当。

えり(襟)

語源・語構成とも不詳なれど、「えり」の「え」の部分は恐らく「衣」であろうからア行のえか。『日本国語大辞典』によれば、古くは「ころものくび」「きぬのくび」と称したといい、この語が「衣(え)」+「り(くびに該当する何かの語)」に由来する可能性を裏付ける。
一方、もしこの語が純粋な和語であるのなら、先述の推測は成り立たず、E/YEの別は完全に不明となる。
『日本国語大辞典』に紹介されている諸説のうちの一つ、「『へり』が転じた」とする説は、1) ハ行子音は近世初頭まで唇で発音する/ɸ/であったこと、2) 同時期のE/YE統合音は/je/であったこと、などから難しいように思われる。

えり(魞)

「入る(いる)」の訛、とする説に従えばア行のえか。

エえかっこし

「エえ」は、「よい(良い)」が[yoi]→[ye:]→[e:]と訛ったものなので、ヤ行のエ相当。

 一方、「えげつない」「えらい(偉い)」のごとき語は、語源や語構成がはっきりせぬため、上のような推測を行うことすら叶いません(これらはもしかすると、え・エの二択どころか、え・エ・ゑの三択である可能性もあります)。
 このような「え」「エ」の区別が推定すらできない語については、ひとまず一律に「え」としておくより他にはなさそうです。

参考資料

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