下の一覧表は、「ア行のえ由来の和語」と「ヤ行のエ由来の和語」との別を明らかにすべく作成したものです。大矢透『古言衣延辨證補(以下「證補」)』の内容に、奥村栄実『古言衣延辨(以下「衣延辨」)』の一覧を加えたものが、本表の基礎をなしています。
下の表中、「え」はア行の /e/ を、「エ」はヤ行の /je/ を表します。
[證]のごとき記号の意味は次の通りです:
「え・エ」の区別があった時代の文献に登場する語や文例には *1 のような記号を添えました。*印に続く番号が文献名を表します。番号と文献名の対応一覧表は本表の後に置きました。
ただしこの種の語例は基本的に證補からの孫引きです。該当する文献には存在するのに見落とされて證補に記載がない語例や、誤写せられている語例があるかもしれぬ点にご留意願います。
見出しの前に付いている !?x のごとき記号は、その語の実例が、「え・エ」がまだ区別されていた時代の文献に見出せぬことを示します。『古言衣延辨』は、「え・エ」の区別が失われている和名抄からも例を引いているため、このような語も下の表には混ざっています。
これらの記号が意味するところは次の通りです:
大雑把に括ると、見出しの前に記号がないものや ! が付いているものは「堅い」 ? なら「恐らく大丈夫」 x なら「引き続き検証が必要」と言えます。
一見すると下の表にはそれなりの語数があるようですが、実のところ、えエの別が明らかで、なおかつ複合語でないものに絞ってみますと、これぐらいしか残りません。
言い換えますと、本表でえエの別が明らかとされている語は、上の基本語彙そのもの、またはこれらを構成要素とする複合語がほとんどです。
複合語の中には、今日では複合語であること自体が分かりづらくなっているものもあります。例えば「かのエ【庚】」「きのエ【甲】」「つちのエ【戊】」「ひのエ【丙】」「みづのエ【壬】」の類は、元々「~の兄(エ)」という意味ですので、すべてヤ行のエ相当ということになります。
[證]
「安見児得たり*7」「得難き*7」「あり得む*7」「数へえず*7」「得てし*15」等。「得る」とその複合語のみ。證補は副詞の「え」もここに含めている。
[證・衣・衣増・衣補]
「肖エ(あエ)*4」「零エ(あエ)*7」「脅エ*8」「思ほエ*7,*12」「聞こエ*2,*4,*5,*7,*9,*12」「消エ*15」「越エ(くエ)*7」「越エ(こエ)*4,*7」「栄エ(さかエ)*2,*7,*9,*11」「萎エ(しなエ)*7」「絶エ*1,*7,*15」「生エ*7」「立ち乱エ*7」「見エ*2,*4,*7,*8,*12」「萌エ*5,*7」「燃エ*7,*12」「若エ(わかエ)*11」「疩エ(をエ)*2」等。
ヤ行下二段動詞は他にも、「甘ゆ・嘶ゆ(いばゆ)・癒ゆ・覚ゆ・崩ゆ(くゆ)・凍ゆ(こごゆ)・肥ゆ・冴ゆ・饐ゆ(すゆ)・聳ゆ(そびゆ)・費ゆ・萎ゆ(なゆ)・煮ゆ・映ゆ/栄ゆ・冷ゆ・増ゆ・吠ゆ・まみゆ・悶ゆ」等がある。
『万葉集』の「也末古衣野由支」については大野(1977) に考察あり。曰く万葉集の巻一八には、奈良時代らしからぬ仮名遣いが「五箇所一八首」に集中して見られ、これは損傷を後の世に補修した結果ではないかとのこと。そして「也末古衣野由支」もその部分に含まれるとのことである。
[證・衣増]
「か行けば人に厭はエ、かく行けば人に憎まエ*7」「寝らエ*7」「忘らエ*1,*7」等。
[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
[證・衣]
證補は「こエ」に「蹴エ」と当てる。
[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
[衣]
和名抄の「阿乎比衣」から。
衣延辨は後世「アヲヒユ」とも云うことを論拠に「エ」としているが、e/jeは混同後、共にjeになったとされているので、可能性としては「あをひえ → e/je混同 → あをひエ → あをひゆ」も残る。
[證・衣・衣補]
證補は「え」に「荏」と当てる。衣延辨(補)は「犬荏」と当てる。「蘇 以奴衣 一名 乃良衣*16」「假蘇 乃々衣 一名 以奴衣*16」
→ののえ・のらえ
[證・衣]
衣延辨は「くエ【崩】」でも見出しを立てている。
[證]
[衣補]
和名抄の「伊乎能布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。
[證・衣増]
衣延辨(増)は「エする」で見出しを立てている。
[衣補]
和名抄の「宇江不世利」から。
證補には同じ和名抄の例として「瘼卧・乎江布世利」も示されているが、同語ないし同源か。
[證・衣増]
「え-をとこ*2」「え-をとめ*2」「え-ひめ*2」等。證補は「え」に「可愛」と当てる。「可愛此云哀*4」
→ささらえをとこ
[證]
→えなつひめ・えのき
[證・衣増]
「え、くるしゑ『嗟、苦しゑ』*4」
「疊疊志夜胡志夜(ええしやこしや)*2」について──證補は『古事記伝』の「疊は盈の誤写」説を採って「盈々志夜胡志夜」とし、「盈々」を「エエ」と読むが、ここでは橋本(1970:204-211) 等にある「疊疊=亞々」説を採り、「ええ」と見なした。證補は「エエ」に「嗟」と当てる。
[證・衣増]
「え見ずて*6」「えも名付けたり*7」「えこそ*12」。證補は動詞の「得」と区別せず。
[證]
[證]
語義不明。證補には「衣加佐*13」とあり。證補は「え」に「荏」と当てる。「荏笠」の意味か。
[衣]
和名抄の「衣賀波良」から。衣延辨は暫定的に「え」としている。
[衣]
衣延辨は蝦夷からの類推で「え」とする。
[衣]
和名抄において信濃の「英多」には「衣太」と、加賀のそれには「江多」とそれぞれ振り仮名表記されていることから、衣延辨はこの「英多」を/e/←→/je/の振り分け対象として取り上げている(和名抄の振り仮名は「え・エ」混同後のものなので、この場合「衣」と「江」は同音)。
衣延辨は、1) 「英」の字の反切と、2) 志摩の「英虞」に「阿呉(あご)」、美作の「英多」に「安伊多(あいた)」、備中の「英賀」に「阿加(あが)」等の表記例があることとを論拠に、「英」はア行音であるとし、「英」を「え」に分類している。
しかしこの信濃・加賀の郷名の「英多」に関しては橋本(1970:216-218) に検証があり、古くは「あがた」と読まれていて、「えた」という読み方は後世のものである可能性が指摘されている(前述の美作の「英多」のほうは、本項と同表記にもかかわらず「あいた」であることにも注意)。
「英多」の「英」が「え」か「エ」かという問題は、「呉音以前に日本に伝わってきた古音と思しき『あい・あが(<[aŋ]?)』のような読み方から転訛したもの」と解釈するなら、衣延辨にある通り「え」の可能性が高いということになる。しかし「時代が下ってから漢音『エイ』の影響を受けて生じた読み方」と見るなら、「英」が「え」か「エ」かは字音研究に拠ることになる。
[衣増]
衣延辨は、本居宣長の「えだち・えつぎの『え』は、疫(えやみ)の『え』と同源であろう」との説を引き、「え」としている。
[衣]
衣延辨は、和名抄にはえエの区別がないので引くべきではないとしながらも、郡郷名はえエの区別があった奈良時代に決められたものであることを理由に、例外的に郡名・郷名だけは和名抄の例でも認めている。本表でもこの考え方に倣う。
「愛」「依」とも「ア行のえ」として用例あり。
[衣増]
衣延辨は上の「えだち」と同じ理由により「え」としている。
[證・衣]
證補は「棧」として分類。*13は2例中2例とも「衣豆利」。「えづり」か。
[證]
證補は「え」に「榎」と当てる。
[證]
證補は「え」に「榎」と当てる。
[證・衣補]
證補はすべて「榎」として分類。「榎(え)の木」の意。
[證]
「筑紫日向可愛 可愛此云埃 之山陵*4」
[證・衣増]
證補には「神衣比*13」とあり。證補は「えひ」に「蒲萄」と当てる。
衣延辨は「かみえび」で見出しを立てている。
「ぶどう」の古名「えび」の2拍目の濁点なし表記。
→えびかつら・おほえびかつら
[證・衣]
證補はすべて「鰕」として分類。
甲殻類の「海老(えび)」のこと。2拍目の濁点なし表記。
[證・衣]
證補はすべて「鰩」として分類。
魚の「えい」のこと。
→からえひ
[證・衣]
證補は「えび」に「蒲萄」と当てる。
→おほえびかつら
[證・衣]
證補はすべて「夷(えびす)」として分類。
→えびすくさ・えびすくすり
[證・衣]
證補は「えびす」に「夷」と当てる。
[證・衣]
證補は「えびす」に「夷」と当てる。
[衣]
和名抄の「衣比須禰」から。衣延辨は「えびす草の例」とする。
[衣]
和名抄の「衣比須女」から。衣延辨は「夷海藻なるべし」とする。
[衣増]
衣延辨(増)は字鏡からの例とするが、證補には記載なし。「衣比万良虫また止加介」
[衣]
和名抄の「衣比良」から。衣延辨は暫定的に「え」としている。
[證・衣]
證補は「夷(えみし)」として分類。
[證・衣]
證補は「巤姑」として分類。
『日本国語大辞典 縮刷版』(小学館)によると、「えめむし」とは「節足動物『わらじむし(草鞋虫)』の異名」とのこと。
※橋本(1970:213) によると、新撰字鏡には「衣女虫(えめむし)」の他、「江女虫(エめむし)」と書いた例があるというが、證補・衣延辨とも後者は記載なし。国会図書館のアーカイヴでも前者は見つかれど後者は見つからぬため、ひとまづ '?' 記号付きとする。
「衣女虫」の例:十二巻本の例1(左頁1行目3字目「蜲」の下)、例2(右頁3行目最後「虫+毎」の下)・抄録の例1(左頁下段4字目「虫+ム+毌」の下)、例2(右頁下段終わりから3字目「虫+毎」の下)など。
[衣]
衣延辨は字鏡からの例とするが、證補には記載なし。衣延辨は字鏡の「瘧(衣也三)」と和名抄の「疫(衣夜美)」とで別々に見出しを立てているが、ここではまとめた。
[證・衣]
證補は「えやみ」に「疫」と当てる。
[衣]
衣延辨では「エらみ」という語形で記載。衣延辨は似た意味の「選る(ヨル)」からの類推でヤ行の「エ」としているが、『西大寺本金光明最勝王経』『金剛波若経集験記』等に「えらぶ」表記あり。
[證]
[證]
「大枝謂大兄*10」
[證]
證補は「えび」に「蒲萄」と当てる。
[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
[證]
證補は「エ」に「兄」と当てる。
[衣]
「金の兄」という語構成からしてOK。
[證]
證補は「エ」に「枝」と当てる。
[衣]
和名抄の「賀毛江」から。衣延辨は鴨柄という字を論拠としている。
[衣増]
万葉二十というが、證補には記載なし。
「茅(かや)」の東訛りか。
[衣]
和名抄の「加良衣」から。衣延辨曰く「漢荏なるべし」
衣延辨の「萆」は下が「廾」
[證・衣補]
證補は「えひ」に「鰩」と当てる。
「鰈(かれい)」の古名。「唐(から)のえイ(えい)」
[衣]
「木の兄」という語構成からしてOK。
[證]
[證]
證補は「はえ」に「苗」と当てる。
[衣]
和名抄の「久太能布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。
[衣補]
和名抄の「古万布江」から。
「狛笛」の意か。いづれにせよ「笛」なら「エ」でOK。
[證]
證補は「こエ」に「肥」と当てる。
[證・衣補]
[證・衣補]
證補は「こエ」に「越」と当てる。
[證・衣]
衣延辨は「榮(さかエ)」と一緒に扱う。
[證]
證補は「エ」に「枝」と当てる。
[衣・衣補]
和名抄の「佐左江」から。衣延辨(補)に「續紀に螺江臣あり延に従ふべし」とあるが、證補には記載なし。
[證・衣]
[衣]
和名抄の「佐須江」から。衣延辨は暫定的に「エ」としている。
[證]
[證・衣]
[證]
[證・衣補]
證補には「須波江*13」とあり。證補は「エ」に「枝」と当てる。
衣延辨(補)は「楚」と表記。
[證・衣]
證補は「エ」に「江」と当てる。
衣延辨は「住吉」と表記。
[證]
證補は「海蠺」として分類。「せ」の語尾を引いたものか。
[衣]
衣延辨の「くだのふエ」「ふエ」のところに、字鏡には「簫」を「世乎乃不江」とする例があるというが、證補には記載なし。ただ證補には同じ字鏡の例として「簫」を「をのふエ」と読んだものが載っている。ひょっとすると「世/乎乃不江」と区切ったのがこの「をのふエ」か。
→をのふエ
[證]
「百足る槻が枝*2」
[他]
訓点資料に例があるよう。『日本国語大辞典』(小学館)の「机」の項等を参照。
[衣]
「土の兄」という語構成からしてOK。
[證]
[證・衣]
「長柄」の意。證補には「輗 奈加江乃波志乃ク佐比*14」とあり。
[證]
[證]
證補には「奈波江*13」とあり。證補は「エ」に「枝」と当てる。
[衣]
和名抄の「奈末江乃木」から。衣延辨は「生榎なるべきか」として、暫定的に「え」としている。
[衣増]
和名抄の「乃良衣 一云 奴加衣」から。
「ののえ」「のらえ」の類なら「え」で良さそう。
[衣補]
字鏡の「弩可須波江」からとするが、證補の「須波江*13」と同じ箇所を、異なる区切り方で引いているだけの可能性あり。
→すはエ
[證・衣]
證補はすべて「鵺」として分類。
衣延辨は「ぬエことり」と一緒に扱う。
→ぬエくさ・ぬエことり・ぬエとり
[證・衣]
衣延辨は「偃草」として分類。
[證・衣]
衣延辨は「ぬエ」と一緒に扱う。
[證]
[衣補]
[證]
證補は「え」に「荏」と当てる。「野の荏」か。「乃々衣 一名 以奴衣*16」
→いぬえ
[證・衣補]
證補は「エ」に「柄」と当てる。
[衣]
和名抄の「乃無止布江」から。
「喉笛」の意か。いづれにせよ「笛」なら「エ」でOK。
[證・衣]
證補は「え」に「荏」と当てる。「野良荏」か。「以奴衣 一名 乃良衣*16」
→いぬえ
[證]
證補は「苗」と当てる。
→くすかつらのはえ
[證]
→あがたぬしはエ・あべのはエひめ・はエひめ・やかはエひめ
[證・衣]
證補は「鰷」と当てる。衣延辨は「𩵔(U+29D54){魚偏に也}」と表記。
[證・衣]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
[衣]
和名抄の「波良乃布江」から。
「~の笛」と捉えるなら「エ」でOK。
[證・衣]
この*16(『本草和名』)の「比衣止利」という仮名表記を信じるなら、語源を「稗鳥」とする説は成り立たず。衣延辨は和名抄「比衣土里」を引きつつ、「今ヒヨドリとも云也延なるべし」とする。
→ひエ
[證・衣]
[證・衣]
證補は「エ」に「枝」と当てる。
[他]
衣延辨には「庚・甲・戊・壬」はあるのに「丙」がないので、独自に追加。
「火の兄」という語構成からしてOK。
[證・衣]
[衣]
比叡山・叡山のこと。
衣延辨曰く「古事記に『日枝(ひエの)山』とあり。又『日吉』とも書けり」
叡・枝・吉(=良【エし】)、いずれもヤ行のエであり一貫している。
[證]
證補は「なエ」に「㮈」と当てる。「奈以 一名 布奈江*16」
[證・衣]
→せをのふエ
[證・衣]
[證]
[證]
[證]
[衣]
「水の兄」という語構成からしてOK。
[衣増]
[證・衣補]
證補には「美延斯怒*2」「美曳之弩*4」とあり。證補は(そして衣延辨も)共に「みエしぬ」と読んでいる。前者の「怒」は「ヌ」とも「ノ甲」とも読めるが、後者の「弩」は「ノ甲」と読むのが現代では原則なので、ここでは「みエしの」とした。
→エしの
[證]
[衣]
典拠は示されず。
「萌エ+黄」という語構成からしてOK。
[衣]
和名抄の「毛江久比」から。
「燃エ+杭」という語構成からしてOK。
[證・衣補]
「夜賀波延那須*2」。證補は「はエ」に「榮」と当てる。
證補には*4の例として「那餓波曳灘須(十一)」があるが、これは「椰餓波曳」の誤写と見て、ここに加えた。
衣延辨(補)は「彌木榮」として分類。
[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
[證・衣増]
證補は「はエ」に「生エ」と当てる。衣延辨(増)は「彌木榮」として分類。
[證]
「兄(年長の者)をしまかむ*2」
[證]
「白樫が枝を*4」「本も枝も*7」「松が枝の*7」等。
→おほはエのみこ・おほエのみこ・しづエ・しもつエ・つきがエ・なかつエ・ほつエ・ももエつきのき・エだ・エだエだ・をはエのみこ
[證]
→いりエ・おきつふかエ・くさかエ・ほりエ
[證・衣補]
語義不明。證補は「エ」に「江」と当てる。
[衣]
伊勢郷名和名抄「江久爾」から。衣延辨は「兄國の字による」とする。
「えち」のところで書いた理由により、郡名・郷名は基本的に?とする。
[證]
證補はすべて「吉」と当てる。「エき*4」「エけむ*4」「エしも*7」
[證]
證補には「曳之弩*4」とあり。證補は「エしぬ」と読んでいる。
→みエしの
[證・衣]
「榛が枝*4」
→エだエだ
[衣]
和名抄の「江太」から。衣延辨「枝に倣ふ」
「枝」と同源。
[證]
[衣補]
衣延辨(補)は「兄」と同源として「エ」とするが如何。
橋本(1970:221-223) に検証あり。
[衣]
薩摩郡名和名抄「江乃」から。
和名抄記載の郡名・郷名であっても、読み方を示した部分の仮名表記(この例で言うと上の「江乃」)は、えエ混同後のものなので信頼できず。
ただこの語は、橋本(1970:200-204) に検証があり、それに基づきここでは?とした。
[證・衣増]
東歌。帯の訛りとも結(ゆひ)の転とも。
[證]
證補は「エび」に「蒲萄」と当てる。*3(『出雲風土記』)にだけ現れる表記で5例中5例とも「鹽味葛」。他の資料では「蒲萄」は「えひ」であることに注意。出雲の方言音が反映されたものか。
[衣]
和名抄の「杷の無齒者江布利」から。衣延辨にもあるように「柄振」の意。
[證]
語義不明。證補には「江牟保宇之*13」とあり。「増」にホウと当てられている点疑わしい。
[證・衣増・衣補]
「耳玉江良*14」。證補は「エら」に「揺ら」と当てる。
衣延辨(増)は「みみだまエら」としても見出しを立てている。衣延辨(増)曰く「是はゆに働きて玉ゆらなり」
[證・衣]
「兄をぢ」の意。
[證]
衣延辨には字鏡の例として「世乎乃不江」が載っている。「世/乎乃不江」と区切った例がこの「をのふエ」か。
→せをのふエ
[證]
證補は「はエ」に「榮」と当てる。
10世紀以前の資料に用例が見つからぬ語や、え・エの混同後に生まれた語についても、語源や語構成からえ・エの別が推定できることがあります。『日本国語大辞典』の語源情報を参考に、そのような例をいくつかご紹介します。
「えせぬ(副詞の「え」+「せぬ」)」が約まったもの、という説に従えばア行のえ相当。
また、「おそ」の母音が転じた、という説に従ってもやはりア行のえ相当。
「えて」は「得手」の意味、とする説に従うならア行のえ相当。
「蝦夷」と同語源と思われるのでア行のえか。
「いら(苛)」と関係あり、とする説に従うならア行のえ相当。
語源・語構成とも不詳なれど、「えり」の「え」の部分は恐らく「衣」であろうからア行のえか。『日本国語大辞典』によれば、古くは「ころものくび」「きぬのくび」と称したといい、この語が「衣(え)」+「り(くびに該当する何かの語)」に由来する可能性を裏付ける。
一方、もしこの語が純粋な和語であるのなら、先述の推測は成り立たず、E/YEの別は完全に不明となる。
『日本国語大辞典』に紹介されている諸説のうちの一つ、「『へり』が転じた」とする説は、1) ハ行子音は近世初頭まで唇で発音する/ɸ/であったこと、2) 同時期のE/YE統合音は/je/であったこと、などから難しいように思われる。
「入る(いる)」の訛、とする説に従えばア行のえか。
「エえ」は、「よい(良い)」が[yoi]→[ye:]→[e:]と訛ったものなので、ヤ行のエ相当。
一方、「えげつない」「えらい(偉い)」のごとき語は、語源や語構成がはっきりせぬため、上のような推測を行うことすら叶いません(これらはもしかすると、え・エの二択どころか、え・エ・ゑの三択である可能性もあります)。
このような「え」「エ」の区別が推定すらできない語については、ひとまず一律に「え」としておくより他にはなさそうです。