2-6. 名詞・副詞のアクセント

目次


2-6-1 名詞と副詞

 名詞と副詞は、文法上はまったく違う役割を果たすものです。しかしどちらも「助詞(てにをは)を付けることができる」「形容詞や動詞と違って活用せず、語形が常に一定」という共通点があり、アクセントを考える上では「非活用語」として同列に扱うことができます。
 そこで本章では、これら2つの音調上の特徴を併せてご紹介します。

 なお表記が煩雑になることを防ぐため、ここから先は「名詞と副詞」と書くかわりに単に「名詞」とだけ記します。名詞について述べられていることは、そのまますべて副詞にも当てはまるものとしてお考えください。

2-6-2 1拍名詞

表1 1拍名詞
京都アクセント (参考)東京式アクセント
第1類
戸・子類
●【とぉこぉ ○‐●【
第2類
名・葉類
◐【
第3類
絵・手類
◑【 ●‐○【

 以上3種類あります。
 1拍名詞で注意すべきは、文法の部「名詞と代名詞」でもご紹介したように、京都語では1拍の名詞は語尾引きによって2拍相当の長さになるという点です。そのため助詞を付けずとも、「日ぃ/◐」と「火ぃ/◑」とを言い分けたり、「気ぃ/●」と「木ぃ/◑」とを言い分けたりすることができます。


2-6-3 2拍名詞

表2 2拍名詞
京都アクセント (参考)東京式アクセント
第1類
風・水類
●●【かぜ ○●‐●【ぜ‐が
第2類
夏・冬類
●○【 ○●‐○【
第3類現代では京都・東京ともに第2類に統合されている。
第4類
海・空類
○●【
○●‐●(→遅上がり→)○○‐●【うみ
●○‐○【み‐がる‐が
第5類
春・秋類
○◐【
○●‐○【

 以上の4種に分類されます。
 2拍名詞で注意すべきは、4類名詞(海・空・麻など)と5類名詞(春・秋・朝など)との違いです。

 4類名詞は低い音○で始まり、2拍目で音程が上がって高い音●のまま終わります。これに対して5類名詞は、低い音○で始まり、2拍目でいったん音程が上がって高い音●へ移行した後、すぐさま音程が再び下がります。5類名詞はこのように最後の拍が音程を下げながら発音される関係上、「はるぅ」「あめぇ」という具合に軽い語尾引きが起こる傾向にあります。

 2拍の4類名詞と5類名詞との違いは助詞が付く時にも現れます。4類名詞は高い音で終わるので、助詞が付いてもその助詞固有のアクセントが生かされます。これに対して5類名詞は低い音で終わるので、その後ろに付く助詞は強制的に低く平らにならされてしまいます(上表「海が」「春が」参照)。

 なお、4類名詞と5類名詞との詳しい分類については当サイトの「資料室」内にまとめてあります

2-6-3-1 2拍名詞のうち特殊なアクセントのもの

「人(ひと)」という名詞のアクセントは●○型(2拍名詞第2類)ですが、前に「この・その・あの・どの」などが先行して「この人・その人・あの人・どの人」という形になった時に限り、全体が●●●●型となって平板に発音されます。

※例「あるが(○○●○○)言うてはったことやけどな」「あるって(○○●○○○)どの?(●●●●)」「あんたの知らんや(●○○)」


2-6-4 3拍以上の名詞

 京阪式アクセントの体系上考えられる型すべてが、実際に名詞のアクセントとして現れます(式と核については「京都アクセントの体系~式と核」を参照)。

表3 3拍名詞
核の位置 京都アクセントの体系
高起式
(1拍目は高い)
低起式
(1拍目は低い)
無核 ●●● / H0
こおり(氷)
○○● / L0
おやこ(親子)
2拍目にある ●●○ / H2
ことば(言葉)
○●○ / L2
うしろ(後ろ)
1拍目にある ●○○ / H1
いのち(命)
L1
発音不可
表4 4拍名詞
核の位置 京都アクセントの体系
高起式 低起式
無核 ●●●● / H0
はじまり(始まり)
○○○● / L0
かかわり(関わり)
3拍目にある ●●●○ / H3
かんがえ(考え)
○○●○ / L3
いろがみ(色紙)
2拍目にある ●●○○ / H2
ひとびと(人々)
○●○○ / L2
ブランコ
1拍目にある ●○○○ / H1
うぐいす(鶯)
L1
発音不可

 原則は表の通りなのですが、実のところ現代の京都語では●●○型と●○○型とが区別されず、両方とも●○○型で発音されてしまうのが普通です。●●○→●○○のような現象は、核の位置が単語の先頭のほうへ昇ってゆくことから「昇核現象」と呼ばれます。

 東京アクセントには、単語の始まりは必ず ○●‐ か ●○‐ かになるという暗黙のルールがありますが、京阪式アクセントにはそのような縛りがありません。そのため京阪式アクセントでは、3拍以上の名詞には「名詞の拍数×2-1」種類のアクセント型が存在します(高起式・低起式と2式あるので×2、ただしL1型は発音不可能なため-1)。

例:

3拍名詞: 3×2-1=5種類
4拍名詞: 4×2-1=7種類


2-6-5 頭に丁寧の「お~」「ご~」が付いた名詞

 名詞の頭に付けて丁寧さを添える「お」は低起の接頭語です。そのため「お」の付いた名詞は、「お箸/○○●」「お盆/○○●」「おこた/○●○」「おみかん/○○●○」のように全体が低起の語となります。
 核の位置について決まったルールのようなものはありませんが、全体がL0型かL-2型かになる傾向があります。

 一方頭に「ご」が付いた名詞は、「お」の場合ほどはっきりした傾向は見られません。「ご意見/●●○○」「ご苦労/●○○○~●●○○」「ご無沙汰/●●●●」など高起の例もあれば、「御幸町(ゴコマチ)/○●○○」「御免/○○●」「御前/○○●」などは低起の例もあります。
 しいて傾向を挙げるとすれば、原則は高起でありつつも、「ご」+名詞の結合度が強いと低起にもなる、と言えるかもしれません


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