名詞のアクセント紹介に続いては、名詞とは切っても切り離せぬ「てにをは」こと「助詞」のアクセントについてのご紹介です。
意外に思われるかもしれませんが、京都言葉では助詞も固有のアクセントを持っています。
ただし助詞固有のアクセントが現れるのは、直前の語または文節が無核(音の下がり目なし)である場合のみです。「花/●○」「春/○◐」「これこそ/●●●○」のような有核(音の下がり目あり)の語や文節に付く場合は、助詞の部分は低く平らにならされて発音されるのが普通です(例:「花は/●○○」「春に/○◐○」「これこそが/●●●○○」)。
ところで文法上、形容動詞の活用語尾と呼ばれているものや、断定の助動詞「や・どす」も、元をたどると実は「助詞+何か」が融合して出来上がったものです。
そこで本章ではこれら(形容動詞の活用語尾や断定の助動詞「や・どす」)のアクセントも併せてご紹介します。
付属語部分のアクセントを分かりやすくするため、低起式の語例にもあえて遅上がりを適用させず示します。
高起式無核(●...●型)の 語に付いた例 |
低起式無核(○...●型)の 語に付いた例 |
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断定の助動詞(兼、形容動詞語尾) | |||||
や | ○ | 水や | ●●‐○ | 海や | ○●‐○ |
やった | ○○○ | 水やった | ●●‐○○○ | 海やった | ○●‐○○○ |
やろう | ●○○ *1 | 水やろう | ●●‐●○○ | 海やろう | ○●‐●○○ |
どす/です | ●● | 水どす | ●●‐●● | 海どす | ○●‐●● |
どした/でした | ●○○ | 水どした | ●●‐●○○ | 海どした | ○●‐●○○ |
どすやろ | ●●●○ | 水どすやろ | ●●‐●●●○ | 海どすやろ | ○●‐●●●○ |
どっしゃろ | ●●●○ | 水どっしゃろ | ●●‐●●●○ | 海どっしゃろ | ○●‐●●●○ |
でしょう | ●●● | 水でしょう | ●●‐●●● | 海でしょう | ○●‐●●● |
なら(ば) | ○○(○) | 水なら | ●●‐○○ | 海なら | ○●‐○○ |
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形容動詞の連体形語尾 | |||||
な | ○ | 無駄な | ●●‐○ | 変な | ○●‐○ |
格助詞のうち形容動詞の連用形語尾も兼ねるもの | |||||
に | ● | 無駄に・水に | ●●‐● | 変に・海に | ○●‐● |
で | ● | 無駄で・水で | ●●‐● | 変で・海で | ○●‐● |
格助詞 | |||||
が | ● | 水が | ●●‐● | 海が | ○●‐● |
を | ● | 水を | ●●‐● | 海を | ○●‐● |
の(連体) | ● | 水の中 | ●●‐●‐○● | 海の中 | ○●‐●‐○● |
の(準体言) | ○ | 水の | ●●‐○ | 海の | ○●‐○ |
へ | ○ | 水へ | ●●‐○ | 海へ | ○●‐○ |
と(ともに) | ● | 水と波 | ●●‐●‐●○ | 海と陸 | ○●‐●‐●● |
と(引用) | ○ | 水という | ●●‐○‐○○ | 海という | ○●‐○‐○○ |
って | ○○ | 水って | ●●‐○○ | 海って | ○●‐○○ |
から | ●● *2 | 水から | ●●‐●● | 海から | ○●‐●● |
より | ○○ | 水より | ●●‐○○ | 海より | ○●‐○○ |
にて | ●○ | 水にて | ●●‐●○ | 海にて | ○●‐●○ |
には | ●● *3 | 水には | ●●‐●● | 海には | ○●‐●● |
にも | ●○ | 水にも | ●●‐●○ | 海にも | ○●‐●○ |
では | ●● *3 | 水では | ●●‐●● | 海では | ○●‐●● |
でも | ●○ | 水でも | ●●‐●○ | 海でも | ○●‐●○ |
からは | ●●● | 水からは | ●●‐●●● | 海からは | ○●‐●●● |
からも | ●●○ | 水からも | ●●‐●●○ | 海からも | ○●‐●●○ |
係助詞 | |||||
は | ● | 水は | ●●‐● | 海は | ○●‐● |
も | ○ | 水も | ●●‐○ | 海も | ○●‐○ |
こそ | ●○ | 水こそ | ●●‐●○ | 海こそ | ○●‐●○ |
並立助詞 | |||||
か | ● | 水か波 | ●●‐●‐●○ | 海か川 | ○●‐●‐●○ |
や | ○ | 水や波 | ●●‐○‐●○ | 海や川 | ○●‐○‐●○ |
副助詞 | |||||
さえ | ●○ | 水さえ | ●●‐●○ | 海さえ | ○●‐●○ |
すら | ●○ | 水すら | ●●‐●○ | 海すら | ○●‐●○ |
など | ○○ | 水など | ●●‐○○ | 海など | ○●‐○○ |
なんて | ○○○ | 水なんて | ●●‐○○○ | 海なんて | ○●‐○○○ |
まで | ○○ | 水まで | ●●‐○○ | 海まで | ○●‐○○ |
やら | ○○ | 水やら | ●●‐○○ | 海やら | ○●‐○○ |
かて *4 | ●○ | 水かて | ●●‐●○ | 海かて | ○●‐●○ |
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間投助詞 | |||||
な | ◐ | 水な | ●●‐◐ | 海な | ○●‐◐ |
ね | ◐ | 水ね | ●●‐◐ | 海ね | ○●‐◐ |
終助詞(名詞に付くもの) | |||||
え | ● | 水え | ●●‐● | 海え | ○●‐● |
か | ● | 水か | ●●‐● | 海か | ○●‐● |
かも | ●○ | 水かも | ●●‐●○ | 海かも | ○●‐●○ |
かな | ○○ | 水かな | ●●‐○○ | 海かな | ○●‐○○ |
かい(な) | ●○(○) | 水かい(な) | ●●‐●○(○) | 海かい(な) | ○●‐●○(○) |
終助詞(動詞・助動詞などに付くもの) | |||||
わ | ●または○ | するわ | ●●‐● ●●‐○ |
来るわ | ○●‐● ○●‐○ |
や | ● | 言いや | ●●‐● | 読みや | ○●‐● |
がな | ● | するがな | ●●‐○○ | 来るがな | ○●‐○○ |
ぞ | ○ | するぞ | ●●‐○ | 来るぞ | ○●‐○ |
で(ぜ) | ○ | するで | ●●‐○ | 来るで | ○●‐○ |
いな *5 | ○○ | 言うていな | ●●●‐○○ | 読んでいな | ○○●‐○○ |
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接続助詞 | |||||
ながら | ●●● | 言いながら | ●●‐●●● | 書きながら | ○●‐●●● |
もて | ●● | 言いもて | ●●‐●● | 書きもて | ○●‐●● |
けれど(も) | ●○○(○) | するけれど | ●●‐●○○ | 来るけれど | ○●‐●○○ |
けど(も) | ●○(○) | するけど | ●●‐●○ | 来るけど | ○●‐●○ |
し | ○ | するし | ●●‐○ | 来るし | ○●‐○ |
さかい(に) | ●○○(○) | するさかい | ●●‐●○○ | 来るさかい | ○●‐●○○ |
よって | ●○○ | するよって | ●●‐●○○ | 来るよって | ○●‐●○○ |
上の表のうち、「へ・や・も」のように「直前の文節の終わり方がどうであれ、助詞自身は常に低く始まる」という付き方のことを「低接」と言います。一方、「が・を・は」のように「直前の文節が高く終わる(無核)ならそれを受けて助詞自身も高く始まり、低く終わる(有核)ならそれを受けて助詞自身も低く始まる」という付き方のことを「順接」と言います。
無核の語に付く例 (例:上;●●) |
有核の語に付く例 (例:山;●○) |
備考 | |
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順接の助詞 (例:から) |
うえ+から ●●+●● |
やま+から ●○+○○ |
無核の語に付くなら高く始まり、 有核の語に付くなら低く始まる。 |
低接の助詞 (例:へ) |
うえ+へ ●●+○ |
やま+へ ●○+○ |
前がどうあれ常に低く始まる。 |
助詞「の」だけは少し変わった特性を持っていて、基本的には順接なのですが、H-2型(高起式かつアクセント核が最後から2拍目にある音調)の名詞に付くと、しばしば文節全体が高く平らなアクセントになります。
余談ですが、かつての京都言葉には、順接・低接の他に、次のような付き方をする助詞も存在しました。
先ほどの表1の中にも少し例が出ていますが、「これ+から+は+なあ」のように助詞が連続する場合も、直前が高く終わっている限りはそれに続く助詞の固有アクセントがそのまま現れます。
最初の例では無核の語が続くため、最後の「な」まで助詞固有のアクセントがそのまま現れているのに対して、2つめの例では「こそ」の途中で音程が下がっているので、それ以降は助詞固有のアクセントが現れなくなっています。
「絵・木・手・火」など◑型の1拍名詞に順接の助詞が付くと、名詞部分は○型に変化します。例えば「木」は単独なら◑型ですが、順接の助詞が付くと「木‐を/○‐●」のようになります。
一方これら◑型の1拍名詞に低接の助詞が付いた時は、「木‐も/◑‐○」のように原則通りの音調になります。
上の表には入れてありませんが、推量の「~でしょう」は●○○や○○○というアクセントでも発音されます。
もともと「何々でしょう」という言い方は、「何々でございましょう」が約まったものと考えられています。ゆえに「何々でしょう」の「で」は元々助詞の「で」ですので、発音上の区切り位置は本来なら「で」の次に来るはずです。
「そうで‐す | /●●●‐● | (← そうで‐ございます | /●●●‐●●●●●)」 |
「そうで‐した | /●●●‐○○ | (← そうで‐ございました | /●●●‐●●●○○○)」 |
「そうで‐しょう | /●●●‐●● | (← そうで‐ございましょう | /●●●‐●●●●●●)」 |
しかし実際には、「何々‐やろう」という言い方に引きずられて、「そう‐でしょう」というふうに、「でしょう」の前に区切りを置く人も多く、そのような場合次のようなアクセントになりやすいようです。
「そう‐でしょう | /●●‐●○○・●●‐○○○」 |
「そう‐やろう | /●●‐●○○・●●‐○○○」 |
このような「解釈の差による発音の違い」が生じてしまうあたりに、この「~でしょう」という表現がもとは京都になかったということ、そしてこの言い方が口伝えではなく、共通語で書かれた文章によって京都にもたらされたものであるということが現れています。