N3. 名詞の基本5類その2(第3曲用)

目次

N3. 第3曲用・子音幹とI幹

 第3曲用は子音幹名詞(語幹が子音で終わるもの)とI幹名詞(語幹がIで終わるもの)との2つに大別されます。これらは元々互いに無関係でそれぞれ別々の曲用をしていましたが、時代が下るにつれて次第に混ざり合っていったことから、合わせて「第3曲用」と呼ぶのが慣例となっています。

 性別は3種類すべて現れます。前章に出てきた4つの類とは異なり、語尾を見るだけでは男性か女性かを判別できぬケースがほとんどです。
 名詞の基本5類の中でもっとも覚えることが多く、学習に苦戦する曲用です。

N3-1. 子音幹

 子音幹名詞の曲用語尾は次の通りです。

第3曲用・子音幹名詞の曲用語尾
性\格 単数 複数
主格 呼格 対格 属格 与格 奪格 主格 呼格 対格 属格 与格 奪格
男性
女性
-s/なし -s/なし -em -is -e -ēs -ēs -ēs -um -ibus -ibus
中性 なし なし なし -is -e -a -a -a -um -ibus -ibus

 男性名詞と女性名詞の単数主格および単数呼格においては、しばしば語幹と曲用語尾とが融合して語幹末が他の格とは異なる形になったり、曲用語尾が消失したりします。

N3-1-1. 黙音幹

 「黙音」とは音声学でいう「破裂音」のことです。ラテン語やギリシア語など古典語の世界でよく使われる言い方です。
 ラテン語の黙音はp, b, t, d, c, gの6種類です。これらが語幹末に来る名詞は次のように曲用します。

N3-1-1-1. G幹とC幹

黙音幹名詞1~G幹とC幹(男性と女性)
例:rēx, m.(語幹:rēg-)
「王」
例:dux, m.(語幹:duc-)
「指導者」
例:apex, m.(語幹:apic-)
「点・先端」
単数複数 単数複数 単数複数
語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾
主格 x-s rēgēs-ēs dux-s ducēs-ēs apex-s apicēs-ēs
呼格 x-s rēgēs-ēs dux-s ducēs-ēs apex-s apicēs-ēs
対格 rēgem-em rēgēs-ēs ducem-em ducēs-ēs apicem-em apicēs-ēs
属格 rēgis-is rēgum-um ducis-is ducum-um apicis-is apicum-um
与格 rēgī rēgibus-ibus ducī ducibus-ibus apicī apicibus-ibus
奪格 rēge-e rēgibus-ibus duce-e ducibus-ibus apice-e apicibus-ibus

 表中の語例はどれも男性名詞ですが、女性名詞もまったく同じように曲用します。即ちこのグループは語形から男性か女性かを判断することは出来ません。
 このグループの特徴は単数主格と呼格とが-xで終わることです。語幹が-cで終わるものに単数主格語尾-sの付いた-csが-xと綴られるのは分かるとしても、-gで終わる語幹に-sが付いた-gsまで-xと綴られるのは不思議なことのように思われるかもしれません。これは発音の章のBのところで書いたのと同じ「子音の無声化」がこの -gsでも起こるためです(即ち、-bsという並びにおいて b は直後の s の影響で無声化して -ps と発音される。これと同様に -gs という並びでも g が直後の s の影響で無声化して -cs = -xと発音される)。

 この無声化を別とすれば左の2例はどの格も語幹が同じですが、一番右の例は単数主格および呼格とそれ以外の格とにおいて語幹末付近の母音が微妙に代わっています(-ec 対 -ic)。子音幹名詞ではこのような語幹の交代が珍しくありません。

 G幹/C幹の中性名詞はほとんどなく、調べてみた限りではallēc, -is(魚醬)ぐらいしか見つかりませんでした(ただしこの語にはallēx, -isという女性形も併存)。
 中性名詞の場合、単数の主格呼格対格には曲用語尾が付かず語幹が剥き出しとなり、複数の主格呼格対格に -aという曲用語尾が付く他は、男性・女性名詞と同じように曲用します。

黙音幹名詞2~G幹とC幹(中性)
例:allēc, n.(語幹:allēc-)
「魚醬」
単数複数
語形語尾語形語尾
主格・呼格・対格 allēc(なし) allēca-a
属格 allēcis-is allēcum-um
与格 allēcī allēcibus-ibus
奪格 allēce-e

N3-1-1-2. D幹とT幹

黙音幹名詞3~D幹とT幹(男性と女性)
例:lapis, m.(語幹:lapid-)
「石」
例:aetās, f.(語幹:aetāt-)
「一生・寿命」
例:mīles, m.(語幹:mīlit-)
「兵士」
単数複数 単数複数 単数複数
語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾
主格 lapis-s lapidēs-ēs aetās-s aetātēs-ēs mīles-s mīlitēs-ēs
呼格 lapis-s lapidēs-ēs aetās-s aetātēs-ēs mīles-s mīlitēs-ēs
対格 lapidem-em lapidēs-ēs aetātem-em aetātēs-ēs mīlitem-em mīlitēs-ēs
属格 lapidis-is lapidum-um aetātis-is aetātum-um mīlitis-is mīlitum-um
与格 lapidī lapidibus-ibus aetātī aetātibus-ibus mīlitī mīlitibus-ibus
奪格 lapide-e lapidibus-ibus aetāte-e aetātibus-ibus mīlite-e mīlitibus-ibus

 このグループの特徴は、D幹・T幹とも単数の主格と呼格とにおいて語幹末尾の子音 (d, t) が消えてしまうことです。これらも一旦はパターン通り語幹に曲用語尾 -sが付いて -tsとなったものの、[ts] という子音がラテン語に定着せず -sに変化してしまったものと考えられています。

 一番右のmīlesのように単数主格および呼格とそれ以外の格とで微妙に語幹が異なる名詞があることや、男性名詞も女性名詞も同じように曲用するため語形から性を判別することが出来ないのは先ほどのG幹C幹の場合と同じです。

 D幹/T幹も中性名詞は少なく、cor, cordis.(心)と caput, -pitis.(頭)の2語ぐらいしかありません。

黙音幹名詞4~D幹とT幹(中性)
例:cor, n.(語幹:cord-)
「心」
例:caput, n.(語幹:capit-)
「頭」
単数複数 単数複数
語形語尾語形語尾 語形語尾語形語尾
主格 cor(なし) corda-a caput(なし) capita-a
呼格
対格
属格 cordis-is (用例なし)-um? capitis-is capitum-um
与格 cordī cordibus-ibus capitī capitibus-ibus
奪格 corde-e cordibus-ibus capite-e capitibus-ibus

 caputは複合語の後部成素となる時には -ciputとなります。例:occiput, -pitis(後頭部).

 ラテン語においては数が少ないT幹の中性名詞ですが、古典ギリシア語では「行為の対象や結果」を表す中性名詞を作るのに -matという接辞が使われることもあって、ギリシア語からの借用語には -ma, -matis型の中性名詞が数多くあります。

黙音幹名詞5~ギリシア語由来のT幹(中性)
例:poēma, n.(語幹:poēmat-)
「詩・ポエム」
単数複数
語形語尾語形語尾
主格 poēma(なし) poēmata-a
呼格
対格
属格 poēmatis-is poēmatum-um
与格 poēmatī poēmatīs-īs
奪格 poēmate-e poēmatīs-īs

 このタイプの名詞は、複数の与格と奪格とがパターン通りの -ibusではなく -īsになります。

N3-1-1-3. B幹とP幹

 いきなり見出しと矛盾したことを書くようですが、ラテン語には語幹が -bで終わる名詞がありません(形容詞なら caelebs, -bisがあります)。そのためこの項ではP幹の曲用について示します。

黙音幹名詞6~P幹(男性と女性)
例:mūniceps, m. f.(語幹:mūnicip-)
「市民・住民」
単数複数
語形語尾語形語尾
主格 mūniceps-s mūnicipēs-ēs
呼格 mūniceps-s mūnicipēs-ēs
対格 mūnicipem-em mūnicipēs-ēs
属格 mūnicipis-is mūnicipum-um
与格 mūnicipī mūnicipibus-ibus
奪格 mūnicipe-e mūnicipibus-ibus

 これまでに出てきた g, c, d, tなどと基本的には同じです。

 皆無のB幹ほどではないにせよ、P幹名詞も数が少ない上に格がすべて揃っていない*1ことが多く、ラテン語の中では影の薄い曲用です。

  • *1 正確に言うと「すべての格の使用例が文献資料で確認できない」。例えば ops?, opis, f.(力・能力)は単数主格、同与格の用例がない。このような語の場合、辞書ではパターン通りの曲用をすると仮定して見出しを立てることが多い。例:(ops), opis, f.

N3-2. I幹